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【短編小説】それは確かな煌めき

 ちかちかと儚く煌めくものだとばかり思っていたそれらは、今私の頭上で力強くキラキラと瞬いていた。
「すっご……」
 コテージから一歩外に出たところで頭上を見上げて絶句している親友に苦笑する。とはいえ、自分だってこれだけ綺麗な星空を見上げるのは久しぶりだ。都会に住むようになって何年たっただろう。子供の頃は当たり前だったその景色は、今や日常には無いもので、こうやって出かけないと拝見できないものとなってしまった。
「すごいよねぇ。これがさ、当たり前だったんだ。夜中は暗いけど、明るいんだよ」
「なるほどねぇ……しかし……はぁ~……」
 ずっと上を見上げて、ぴかぴかとともすればクリスマスのイルミネーションのように主張し光り輝く星たちに、二人並んで見入ってしまう。
「昔、さ」
「んー?」
「星の王子様ってお話あったじゃん」
「あー、あるねー」
 生返事を返す彼女はきっと読んだことが無いのだろう。大丈夫、私もないから。
「読んだことないんだけどさ、本屋さんで表紙だけ見て。どっかの星に辿り着いた王子様が、一人で寂しくぽつんとしてるのかなって思っちゃって。その日の夜、やっぱりこうやって空を見上げてさ、どこにいるんだろう、会いに行ってあげたいなって、一緒に遊んであげられたらいいのにって思ってた」
「なんとなくわかる」
 ただの感傷。小さい頃、母親に連れられて行った本屋さんで、まだ難しいからと選ばれなかった本は、成長した今も実は読んでいない。でもずっと、その表紙に描かれた、ぽつんと小さな星の上に立ち尽くす少年の悲しそうな顔が心に残っていた。
「これだけある星たちの中の一つに、ぽつんと一人で、かぁ……寂しいだろうね」
「ね」
 なんとなく、本当になんとなくだけれど、少しだけ親友の体温を感じるように横へ体重をかけて。向こうもそうだったらしくて、思ったよりもドンっと肩がぶつかってびっくりする。そのあと、ちらって横目で見た目が合って、クスって笑った。
「王子様をここにご招待できたらいいのにー」
「いいねそれ、一緒に盛り上がりたい」
「何見てたのーとか、どんな事考えてたのーとか聞いて、その後あたしたちの話をして、一緒に色々飲んで食べて、そんで寝る」
 いいかもしれない。彼の苦労話を酒の肴にして、私達の苦労話も聞いてもらって。星に一人の王子様の苦労は私達の比ではないかもしれないけれど、私たちだって、モラハラにカスハラにパワハラにと色々なストレスがたまっているのだ。それらを笑いながら話して、酒の肴にして全部を笑って、食べて、飲んで、飲みこんで、そうしてまた日常に戻るのだ。
「今度、ちゃんと読んでみようかな」
「そうしよ。どんな話なのか気になってきた」
 ずっと頭上で瞬く星たちを見上げながら話していたから、そろそろ首が疲れてきた。それでも、まだまだ飽きることがない。
「でも、とりあえず、まだ見てたい」
「うん、見てたい」
 吸い込まれそうな程に深い夜空を見上げ、二人、肩を寄せてぼーっとしている。
 画面の中ばっかり見てる疲れが飛んでいくかのよう。日常のストレスも洗い流されて……流してしまおう。
 今日はまだまだ時間があるし、もし寒くなってもいいように、実はちゃんと毛布を手に持ってたりする。虫に刺されるのもいやだから、スプレーはばっちりしてきた。
 準備は万端。
 心ゆく迄、綺麗なものだけみて、癒されて、心に栄養をあげることにしよう。


 本日は「星の王子様の日」だそうです。今日は何の日~毎日が記念日~さまより。

 私はだいぶん田舎の出身でして、山間に何件かずつお家があるようなところでした。晴れた夜に見上げれば、空に瞬く星、ほし、ホシ。よくあるオリオン座も小さな星まで見る事ができ、北斗七星も、四番目でしたっけ、少し光が弱い星もきちんと見えていました。今はもう少し街灯や街の明かりがある場所にいますので、星空は各段に薄く見えにくくなってしまいましたが。
 有名なタイトル星の王子様ですが、実は読んだことがありません。どんなお話なのかもまったくです。ですが、食わず嫌いもよくありませんし、これを機に、読んでみたいなと。今度図書館へ行って探してくることにします。

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