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【短編小説】いけばなの日

 今日はわたしの6さいのたんじょう日なの。ようち園のころから、おたんじょう日にはお父さんとお母さんがおへやをたくさんかざってくれて、ケーキとごちそうがたくさんならんで、にぎやかにパーティをすることになってる。
 ふたりともとってもいそがしいけど、ゆかのおたんじょう日はとくべつよって。うれしくって、にこにこしてお母さんありがとう!って抱きつくと、お父さんは?ってかなしそうなおかおで言われちゃうから、もちろんお父さんもよ!って三人でぎゅーってするの。
 ことしも、二人はきのうからごちそうのじゅんびをしたり、かざりつけをはじめたりしてた。だから、わたしも何かしたい!って起きてすぐにお手伝いして、あさからウキウキになったの。じかんになったら学校へ行くから、そうしたらあとはお母さんがぜんぶやっておいてくれるんだって。おねがいしまぁす!って大きなこえで言っちゃって、おとなりにひびくからシーねってちゅういされちゃった。はぁい、ごめんなさい。でもでも、うれしい気持ちはかわんない。学校へ行っても、じゅぎょうをうけてても、かえりの時間になったらもっとわくわくしてた。
 ただいま!って大きなこえで言ったら、おかえりって返ってくる。いそいでおへやを見たい気持ちにストップをかけて、靴をちゃんとそろえたの、とってもえらいわわたし。
 手をあらってうがいをして、それからリビングへ行くと、たくさんのかざりでキラキラのおへやになってた!すごいすごい!って思ったんだけど、ソファに誰かが座ってる。
「おかえり、ゆかちゃん」
「おばーちゃん!ただいまぁ!あ、えっと、こんにちはっ!」
 偉いわねぇって頭をなでてくれたおばーちゃんは、わたしのおたんじょう日だから、きてくれたんだって!
「お義母さん、わざわざありがとうございます」
「いいのよ、大事な日だもの。それにね、今日が良かったの」
 おばーちゃんは、すてきな着物をきて、ソファの前のテーブルの上にお花をかざりながらおしゃべりしてた。
「ねぇ、ゆかちゃん、このお花綺麗でしょう?」
 おばーちゃんが見せてくれたお花は花瓶にいれてあるんじゃなくて、まぁるいお皿の上にあるとげとげした台みたいなのの上に立ってる。葉っぱもお花もピッ!てきをつけのしせいみたい。
「すごーい……とってもキレイね」
「じゃあ、ゆかちゃんもお花、生けてみる?」
「いける?」
「ここにね、お花を、刺して、立てて飾ってあげるの」
 おばーちゃんがゆかにわたしてくれたお花はとってもキレイな黄色のお花。しってる、バラだよね?これ。
 おばあちゃんが、ゆびさしたところに黄色のバラをおそるおそるさしたら、いっぱい立ってるお花たちのまんなかにバラがすくっと立って、いちばんキレイに咲いてるように見えた。
「すごい……とってもキレイね……」
「ほら、ね、この子は才能があるわよ。きっと上手に生けられるようになるわ」
「そうはおっしゃいますが……」
「費用は全部私が持ちます、この子がやめたいと言ったらもちろんそこでおしまい。続けたいと思ってくれる間だけでいいわ。それならどうかしら?」
「そう、ですね……ゆかが、やりたい、と言うなら止めません」
 お母さんとおばーちゃんがお話してから、おばーちゃんにゆかちゃんって呼ばれた。
「ゆかちゃん、ばぁばと一緒に、お花を飾るお教室に通わない?」
「お花を飾るの?」
「そう、生け花って言って、こうやってお花を好きなように飾り付けてあげるの。どう?」
「……好きなように?」
「そうよ、ゆかちゃんが、こうやって飾ったら綺麗だなって思うように、飾りつけしてあげるの」
「や、ってみたい、かも」
「決まり!それじゃ、来週…さすがに急かしら、お教室の先生にお話をしておくから、再来週からばぁばと一緒に教えてもらいに行きましょう」
「ん、うん、わかった……」
「この子ったら…お花が大好きなのは元からですけど、こんなにずっと見惚れる程だなんて思いませんでした。お義母さん、お世話になります」
「芸事の稽古始めは6歳の6月6日からって言葉がありますからね、ばっちりのタイミングだったわ」
 おばーちゃんとお母さんがまだ二人で何かお話してたけど、私のみみにはきこえてこなかったわ。
 だって、ほんとうに黄色のバラがとってもすてきだったから。じっと見つめて、ほうっとためいきをついて。すてきねってつぶやいてた。

 その晩は、おばーちゃんとお父さんとお母さんとわたしのよにんでパーティをしたわ。とってもおいしそうなごちそうと、甘くて可愛いケーキと、キラキラのおへやと、素敵な黄色のバラ。おばーちゃんと、お花をかざるのがたのしみ!って言ったら、おばーちゃんがあらあらって言いながら目の近くをこすってた。どうしたんだろう、だいじょうぶかな。でもお顔はうれしそうにわらってたから、だいじょうぶだったみたい。


 本日は「いけばなの日」だそうです。日本記念日協会様より。

 今日は語呂がいいのか、沢山の記念日がありまして、選ぶのに苦慮しました。同じ系統で芸事系の楽器の日とか、あとは形からのロールケーキの日、他にも6ということでアンガーマネジメントの日でもあるみたいです。なんだか本当にたくさんあって。その中から、個人的にやったことがないけどやってみたい習い事、ということでいけばなの日を選択しました。
 同じ登場人物を出すとシリーズものになっちゃうなーと思いつつ、でもきっと一つの家庭の中で、様々なシーンがあるだろうから、それを記念日テーマと絡めて書いていけたらそれはそれでいいなと思いまして、オムレツの日のお話のゆかちゃん一家再登場です。出たり出なかったりだと思うので、期待せずに次回をお待ちください。後でゆかちゃんのお誕生日が6/6だということと、おばあちゃんと一緒に生け花教室に通う事をメモしておかなければですね。

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