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【短編小説】オムレツの日
まぁるくて、とってもきれいなきいろ。フォークでちょっとつつくとふわんふわん。ホカホカのゆげは、出来たばっかりだっておしえてくれてる。うう、おいしそう~。
「食べていいよ」
「いただきまぁすっ!」
おかーさんのひとことで、うずうずしてた手をえいってうごかした。
とろとろふわふわのオムレツは、口のなかにいれてもやっぱりふわふわとろとろでとってもしあわせ。こんなにおいしいオムレツを作れるおかーさんはてんさいだとおもうの!
「オムレツ好き?」
「大すき!!おかーさんのふわふわオムレツ、わたしいっちばーんすき!」
おいしいオムレツでうれしくって、おかーさんのおしゃべりに元気よくこたえたら、おかーさんがふんわり笑ってくれた。あ、そうやって笑うおかーさんのおかおもすき。
「このオムレツね、お父さんが教えてくれたのよ?」
「そうなの?おとーさんも作れるの?」
「そうよー。こんど、作ってもらおっか」
「うん!」
まだお部屋でねてるおとーさんを、ドアの向こうで見えないけど見つめて、お願いしなくちゃって考える。でも、まだお皿にはんぶんくらいのこってるオムレツをまた食べ始めたら、しあわせで忘れちゃうかも。おかーさんおぼえててくれるかな。
「君が好きなら毎日作ってあげるよって言われたはずなんだけどなぁ」
おかーさんが小さなこえで何か言ってるけど、うまく聞こえない。
「なぁに?」
「ううん、こっちの話。お父さんがね、お母さんに約束してくれた事があるの」
「やくそく?」
「そう。毎日このオムレツを作ってくれるって」
「そうなの?おやくそくはまもらなきゃでしょ?」
へにゃりっておかーさんのおかおが悲しそうになった、あ、そのおかおはすきじゃないやつだ。
「ねー、プロポーズの時の約束はしっかり守ってもらわないとやだよねぇ」
ふぅっと息をはいたおかーさんは、ゆかは気にせず食べなって言ってくれた。それでも、さっきまでのしあわせなきもちがちょっとしぼんじゃって、すこしずつ口にいれる。おいしさはかわらないはずなのに、さっきよりおいしくないのはなんで?
あんまりおいしくなくなっちゃったオムレツを、ゆっくりひとくち、ふたくちたべてたら、がちゃって音がした。
「毎日は難しそうだから、週一でお願いって後から言ったじゃん」
「…そうだけど」
ドアの向こうからおとーさんがあくびしながらあるいてきた。おかーさんは……あれ、なんだかとってもかわいいおかおしてる?
「それに、今日は昼でいいよって昨日言ったのはキミでしょ?」
「そうだけどぉ……」
「ちゃんと、自分の分を作らずにゆかの分だけ作ってるあたり、待っててくれたんでしょ。今から作るからあとちょっと待ってて」
わたしが食べてるオムレツをちらっと見たおとーさんは、おかーさんのおでこにちゅってしてから、わたしにもおはようってほっぺにちゅーをしてくれる。
えへへって嬉しくなって、おとーさんおはよ!ってわたしもほっぺにちゅってしてからおかーさんを見たら、さっきまでのかなしいおかおじゃなくなってた!
その後のおとーさんはすぐにキッチンに入ってったのよ。ちゃっちゃって卵をまぜて、じゅわーってフライパンからいい匂いがして、あっと言う間におかーさんが作ってくれたのとおなじか、それよりもつやつやでキレイでふんわりまんまるのオムレツを作っちゃった。
「ハイ、召し上がれ」
「頂きます……んんん……美味し」
「そ、良かった」
ひとくち食べたおかーさんがとっても嬉しそうだったから、わたしもたべかけのオムレツをひとすくい。
おとーさんにもわけてあげて、三人でたべたオムレツは、今日食べたときのなかで、いっちばん美味しかったのよ。
記念日をテーマに小説を書こう2日目です。記念日一覧は日本記念日協会様で調べました。
本日はオムレツの日だそうです。裏テーマとしてもう一つ、プロポーズの日でもあるそうなので、織り交ぜておきました。
ふわっふわのオムレツって幸せの象徴みたいなところがある気がします。個人的な感覚になってしまいますが。私が作るときも、なるべくふわとろになるように、油やバターは惜しみなく、卵も惜しみなく3個くらいいっぺんに。しっかり泡立てて、ふわふわになるようにして。火は強すぎないように焦げないように。そうしてできたオムレツはつやつやふかふか……には技術が足りずもう一歩ですが、でも自分なりに満足のいくふわふわで幸せな気持ちになります。
今のご時世、タイパとかコスパとか、何かと短縮しがちですが、やはりひと手間かけたものは贅沢でありつつ、幸せな気持ちになれるものですよね。たまには時間と材料を贅沢に使って、ささやかな贅沢でできる幸せを享受するのも良いと思いますよ。
小説を書く力になります、ありがとうございます!トイ達を気に入ってくださると嬉しいです✨