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職人よ、大志を抱け

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私が漆刷毛製作という仕事を通して得てきた伝統工芸に対する考えや、仕事への向き合いかたを、ものづくりをする若い人々に向けて書いてみました。
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記事一覧

職人よ、大志を抱け①

職人よ、大志を抱け①

はじめに

私がこの道に入ったのは、2011年の震災がきっかけでした。

地元は福島県の西部に位置する会津若松市です。四方を山に囲まれた盆地で、四季の変化が大きく厳しい一面もあるものの、景観は美しく、農業、観光業、そして伝統工芸が地域産業として根付いてきました。私はこの会津の風土が大好きでした。将来はこの風土を守っていく仕事に就きたいと考えて、環境学を学ぶために他県の大学へ出ていました。

大学2

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職人よ、大志を抱け②

職人よ、大志を抱け②

そもそも仕事とは

自分の好きなことを仕事にできたらいいですよね。そもそも、仕事ってなんでしょうか。なんのために仕事をするのでしょうか。

もちろん、生きるためです。
そして生きるということは、世の中と繋がることだと思います。
"世の中と繋がるための行動"それが仕事だと思います。

まわりに対して何かしてあげたとき、そのお礼として自分にはできないことをしてもらったり、生きるのに必要なものモノをいた

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職人よ、大志を抱け③

職人よ、大志を抱け③

漆文化のはじまり

日本人にとって昔から身近にあった最も加工しやすい素材のひとつが "木" です。昔の人は木で生活に必要なものをいろいろ作ってきました。

しかし、木はそのままでは弱くて朽ちやすいです。繊維には道管が通っているため、木をくり抜いてそのまま器などにして使おうとすると水分が染みてしまうし、衛生的にも良くなく、長く使用することはできません。

そこで、漆の出番です。
ウルシノキから採れる

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職人よ、大志を抱け④

職人よ、大志を抱け④

工業化が手仕事にもたらしたもの

工業化によってプラスチック成形品や化学塗料の吹き付け塗装が主流になってくると、木地師、塗師の中には工場の職員に転職する人も多く出始めました。一方、受け継いできた技術を大切にしながら手仕事を続けていく人々も少数ながら残りました。これらが工業製品と区別して "伝統工芸" と言われるようになったのでした。

しかし、高度経済成長下の農林業で第一次産業よりも第二、三次産業

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職人よ、大志を抱け⑤

職人よ、大志を抱け⑤

工業と手仕事の共生

工業化は排除すべきだ!

と言いたいのではありません。
それは現状、無理です。

工業化のうえに成り立ってきた生活が災害などで崩れたとき、人々を助けられるのは工業製品です。伝統工芸などは役には立たず、便利で、安全で、素早い工業製品が緊急時の命を繋ぎます。震災のときにそれを直に感じましたが、その後も全国各地で起こる災害を見ていて感じます。これは事実だと今も思います。

自然災害

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職人よ、大志を抱け⑥

職人よ、大志を抱け⑥

伝統工芸という言葉の罠

前回の投稿で、伝統工芸と工業の共生が大切と書きました。

しかし…

いま伝統工芸の中身自体が、なんだかおかしいように思います。

伝統工芸は昔ながらの素材や道具を使うことをとても重視しています。それは同時に、自然の素材や基本的な道具を扱うための地に足のついた技術や知恵を守ることでもあるからです。

しかしです

言葉どおりに昔ながらの素材や道具を使うことばかりが優先され

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職人よ、大志を抱け⑦

職人よ、大志を抱け⑦

伝統工芸の存在意義

今私たちが作ることのできる伝統工芸は、外側をどんなに忠実に再現しようとも、その中身をかつてのものと全く同じにすることはできません。しかし、そもそも同じにする必要はありません。昔を忠実に再現することが伝統工芸の目的ではないからです。

伝統とは、"在り方"を伝えるものです。
つまり伝統工芸も、手仕事を通して "在り方" を伝えるもののはずです。
在り方というのは、この土地に根ざ

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職人よ、大志を抱け⑧終章

職人よ、大志を抱け⑧終章

これからたくさん迷うあなたへ

いま伝統工芸の世界に入ろうとする人は、理由はさまざまだと思います。そして、やがて手がけるようになる仕事も、現場の状況も、いろいろだと思います。

忙しいときは、とにかく数を完成させることにしか意識を向けられないこともあります。
まるで機械のようになって働く時もあります。
理不尽な要求を迫られることもあります。
おっと、ものづくりだけでなく、家事だってしなければなりま

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