黒沢清「花子さん」(2001年)
1、ざっくり概要
<ログライン>
・中学時代に同級生を自殺に追い込んでしまった過去に苦しむ若者達が、
・廃校になった母校に集まり、トイレで「花子さん」をして、
・花子さんに「出てきて、私を苦しめるものを消してほしい」と、お願いする話。(そもそも、花子さんって願いを叶えてくれるんだっけ?)
<登場人物表>
・主人公(京野ことみ)
20代女性。いじめの主犯格だった。
・男友達(加藤晴彦)
20代男性。主人公と同じ中学出身で、いじめに加担していた。
・女友達(馬渕英里何)
20代女性。主人公と同じ中学出身で、いじめに加担していた。
・謎の男(加瀬亮)
主人公達より若い男性。出身中学校は別。
2、好きポイント
これ、小〜中学生の時にリアルタイムで見て、超面白かったので強烈に覚えてた。ストーリーが全然わからない&でもめっちゃ怖い。大人になっても「あの時の花子さんが忘れられない!」という感じで大好きな作品。
ふつうに「花子さんのビジュアルが斬新」というのが一番記憶にあったけど、見直して見るとそれ以外も凄かった。全部書き出すのは膨大なので、特に感動したポイントを書き出してみる。
<<<※以下、ネタバレ注意>>>
■0:20、冒頭。いい大人が五芒星を書いている@廃校。はい、意味がわからなくて怖い〜。状況が掴めないと、人間は不安になる。
■0:40、学校のトイレに、刃物類をばらまく大人たち。これ脚本じゃなくて演出かもしれないし、美術さんかもしれないけど、「色んな種類の刃物が、雑多に混ざってる」のが怖いと思う。かき集めた感・呪術感が出る。これが全部、おんなじ形の包丁だったら、怖くないっていうか野暮ったい。
■1:20、花子さんの儀式として、呪文?を述べるシーン。ちなみに、ここまで台詞なし、おそるべし。これによってどんな効果があったかというと、説明がないまま「大人たちが意味の分からないことをしている」という怖さが際立ってた。で、ここで急に主人公がばーっと呪文を言い始める。脚本的に上手いなと思ったのは、呪文であれば「たくさん、急に喋ってもおかしくない」ということ。この呪文のなかで、うまいこと状況説明をして、物語が始る。なんて素敵なオープニングなんだ。(このシーン以降、登場人物たちは普通に会話しはじめる)
■6:30、急に現れた加藤晴彦に「これって、育ちが良いって感じがします?」と感想を求められる加瀬亮。まず「何が?」となる。面識ない人から、意図のわからない質問を投げかけられたら、意味不明でこわい。
■12:44、加瀬亮が、廃校で遊んでいる中学生に「気をつけて、花子さん。消されちゃうよ顔みると」と声をかける。声をかけられた中学生は、加瀬亮のことを不審者のようにあしらう。さっきは変な人(加藤晴彦)に絡まれていた「普通の人」だった加瀬亮が、反転して「変な人」になってしまう。と同時に、ここで花子さんのルール説明もしているのが上手い。
■16:10、さっきまで優しかった女友達がキレてる。主人公と女友達の間に、加藤晴彦が現れたで、2人の関係性が変化。加瀬亮は「普通の人→変な人」に反転し、女友達との関係は「良好→喧嘩」に反転している。人の立場や、その人との関係性が変わることは、日常生活においてもこわい。
■17:25、加瀬亮が「謎の人物」であることが確信的になるシーン。主人公と女友達の間に加藤晴彦が現れることで、関係性が変わるので、この3人は広義の3角関係。更に謎の人物(加瀬亮)が現れ、3人に混乱を招くという構造。
■19:00、歩かずに進む、スレンダーボディの花子さん。花子さんのビジュアル・効果音が素晴らしい。あと画期的なのは「花子さんのやることが明確」であること。ふつう幽霊の類って「とにかく迫って来るんだけど、どうやって人を殺すのか、肝心なところが分からない」。この花子さんは殺し方が明確で、肝心なところも画面で描かれる。もちろん怪談なので、非現実的な方法だけど。とにかく、手を抜かず「オリジナル」なものを作っている。
■22:10、花子さんに加え、2人目の幽霊(セーラー服の少女)が登場するクライマックス。子供だった当時、私は意味が分からず混乱した記憶が。しかし、主人公がヤバイ2人(花子&幽霊)に挟み撃ちにされるという最悪の事態になっていることは理解できたので、優れたクライマックスだと思う。ここが「そんなに最悪じゃない事態」だとツマラナイ、と言われてしまう。
■24:15、もはや、散歩する花子さん。結末でも、過剰な説明が無く、見終わった後に余韻が残る。
以上、25分の作品。
3、なんか感想
イランの有名な脚本家の方が「観客はすぐ退屈する。1分に1回twistを入れなければならない」と言っていた。このtwistというのは日本語でいうと、何になるのかまだピンと来てないのだけど(普通にひねり?)、花子さんは1分に1回は興奮できるので、やっぱり凄い。
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