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訪問者

ごめんください。

こんな時間に誰だろう、、

「はい?」

扉を開けるとスラッとした細身の男が
立っていた。

「夜分遅くにすみません。実は以前ここに住んでいた者でして、、」

その男は疲れた顔をしていた

説明がまだだったがここは木造建築の
古いアパートだ、僕が越してきたのは
今から1ヶ月ほど前になる。
ここに決めた理由には、
まぁ色々ある。

とくに不自由なく風呂付きトイレ別なだけで
僕は十分ありがたいと思っている。

「それで、前の入居者さんが何かご用で?」

「はい、えぇっと…忘れ物をしまして」

ちょっと待ってくれ、忘れ物のために
こんな夜遅く、しかも今の入居者がいるにも
関わらず…呆れてものも言えない

「どなたか存じませんが今何時だと…」

「うわー懐かしいなー」

と、勝手に上がり込んできた、

「ちょ、ちょっと、何してるんですか?」

あまりに迷惑だ、警察を呼ぼうか…

「たしかこの辺に…」

勝手に部屋を漁る男性、迷惑極まりない

「あ、あのぉ、警察呼びますよ??」

僕は威圧的な態度で彼の顔を睨み付けた

すると男性はこちらを見つめて

こう言った。

「昔ここで火事がありましたよね?」


あぁ、ずいぶんと前の話だ
僕が生まれてまもないくらいだったかな
全国ニュースにもなったと母から
聞かされていた。
なんでも住人が1人死んだらしい。
全焼したと聞かされていたが、未だに
この建物はアパートとしての形を保っている
僕は何故かその記憶が鮮明に残っている

「それが何か?」

「あー…」


男性はため息混じりに続けた



「わたし…ここで死んだんです」


「 」
え、

心臓の鼓動が早くなってきた
血の気が引いていくのがわかる…
そういえばこの部屋…
安かったのは覚えている
そこが入居の理由ではないが、、
まさか、嘘だろ???!


どーする…いやこれは嘘だ。
だって今から数十年前の話だぞ?
ハッタリだ。

「なななななに、冗談いってるんですかぁ」
「 」
  やだなー」」ははは…

ダメだーーーーーーーーーーー
動揺を隠せない。

呪い殺されるのか…僕は…


「入居者さんには迷惑かけませんよ」
「忘れ物を、、取りに来ただけです」

いや十分迷惑だからーーーー
帰ってください、人でも怖いです。。

「あ、あった!」

男は古い襖を開け、タンスから何かを取り出したのを確認できた
写真…?

「見ます?」

僕は恐る恐るその写真を手に取った…

「これ、僕が入居したときに
 よく面倒をみてくれた方と撮った写真です」

「名前は曽賀真千子さんって言います」

曽賀…僕と同じ名前。そして

「こ、これ僕のばあちゃんだ…」

男は驚いていた…
そして彼は真面目な顔をしてこう続けた

「僕には親がいなくてね、孤独だった
このアパートにしたのは職場が近かったのもあったが、たまたま知り合った大屋さんの曽賀さんに惹かれたのが理由だったんだ」

男は照れくさそうに言った

「当時お金もない僕によくしてくたんだ。
よくご飯を作ってくれたり…優しい言葉をかけてくれたり…とても優しかった。」

男は涙ぐんでいた
どこまでが現実でどこまでが嘘なのかは
わからないが、それがどうでもよくなるくらい僕は話を聞きいっていた。

「よくお孫さんが産まれるんだと、喜んで私に話していたのを覚えています。いつもいつも、何回も、同じ話を…」

僕だ…

「名前は決めていたそうですよ…たしか」


「信幸…ですよね?」

僕は重く閉ざしていた口を開いた。

男は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに
笑みを浮かべた

「あなたでしたか…」

男は床に座り込んだ

「最後にあなたの顔が見れてよかった」

そう話すと男は肩の荷が降りたかのように
安らぎの表情を浮かべた。
安らぎという表現は少し違うかもしれないが
安心しきった顔だった。

すると男の体が段々と透明になっていくのが
わかる…
ホントだったのか…疑念が確証に変わった

姿形が認識できなくなる最後に
男は言った


「よかった無事で…」




あれから数ヶ月たった…


あとで母親から聞いた話だが
僕が産まれてまもない頃、このアパートに遊びにきたことがあったみたいだ。
名前は知らないが、おばあちゃんの知り合い?
の住人の方に面倒を見てもらっていたらしい。

その日、母と祖母は少しの間外出することに…

その間、知人(アパートの住人)の方に僕を預けることになったらしい

そこからは母親も知らないことらしいが、

突如、火災が発生し僕はある男性に救われた。
火の元は男性のアパートだったらしいが、
なぜ出火したのか原因は未だ謎らしい。

そのときの火傷のあとが腕に残っている。

僕を助けてくれた男性はダメだっみたいだ。


説明がまだだったが、
このアパートに入居した理由は
祖母が他界し、僕が後を引き継ぐ運びになったからだ

あえて祖母の家を利用しなかったのは
この部屋にとても特別な"何か"を感じたからだ

あの人は天国で祖母と会えただろうか。


彼は不幸な人生をおくったのかもしれない


だけど僕は彼の幸せを信じてあげたい。

祖母からもらった名前、そして、
メッセージでもある。

"信幸"として





おわり



読んでくださりありがとうございます、
気軽にサラッと目を通していただくだけでも
ありがたいので
機会がありましたらまたよろしくお願いします
\(^^)/









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