私の美しい髪型
腰まであった髪を短くした事がある。
切った長さは優に30cmは超えていたように思う。
何故、そんな長い髪をいきなり切ったのか。
それは、もう必要が無くなったからだった。
必要とは結婚式の際に髪をアップする為だった。前髪さえもアップする為に長く伸ばしていた。
結婚式とは言っても、旦那と二人だけで写真を撮るだけだった。
教会での誓いの儀式や披露宴を少人数でも呼んで行いたかったが、夫に頑なに拒否されたのだ。夫は二回目の結婚の為、恥ずかしいと言って式を断固反対した。
式を行わないと頑として譲らない夫を前に私は泣いた。
私にとっては一生に一度しか無いと思う結婚式だからだ。
私の結婚を祝う人間が誰も居ない気がしてとてつもなく寂しかった。
そんな私の涙を夫は不憫に思ったのか、写真を撮る事を提案してくれた。
二人きりしか居ないが、私は純白のドレスとカラードレスを着る事が出来たのだ。
結婚式のヘアメイクにはそれ相当の長さの髪が必要と知った。
私は婚約が決まってから、可能な限り髪を伸ばした。
写真館のスタッフ達は皆女性で、華やいだ笑顔で私をもてなしてくれた。
どんなドレスにするか、どんな髪型にするか、冠は付けるのか、メイクはどうするのか。
試しにドレスを着てみると、彼女らはしきりに私の姿を褒めてくれた。
夫も恥ずかしげにその姿を見て顏をほころばせた。
いざ、本番のヘアメイクで私の長い髪は遺憾無くその力を発揮した。
メイクスタッフによって、華やかに巻かれ、さながら映画女優のように輝いた。
しかし、見た目は美しいが、触るとごわごわする髪だった。形をキープする為、大量の整髪剤を振り撒かれたのだ。
こんな物か、と私は手品の種を知ったかのように気持ちが醒めた。
写真を撮った後、私は急に髪を切りたくなった。
短い髪は頻繁に美容院に行く手間がかかると思っていた為、敬遠していたのだが、どうしても切りたくなったのだ。
美容院に行って、あごのラインで揃えるボブカットにしてもらった。
結婚式からわずか3日後の事だった。
周囲の反応は驚く程、良かった。似合っている、むしろ長い時より綺麗と言われた。
それまで、髪の短い女性の事を美しいと思っていなかった。年を取って髪の質に自信が無くなる女性のする事だと思っていたのだ。
実際、短くしてみると顏のラインがすっきりして見えるし、以前より女性らしさが際立つ気がした。
髪を切ってから1年経つが私は髪型を変える気はしていない。
今はこれでいい、今の髪型が一番私に似合っていて美しいと思っている。
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