もやしの力を信じてあげれば、塩と油だけで驚くほど美味しい料理になってくれるのです。▶ウー・ウェン『丁寧はかんたん』
2週間前、いったん在宅勤務が終了した。にわかに仕事が忙しくなり、キッチンに立つ時間が減った。通勤電車の中でもキッチンにいるような気持になれれば……と閃いた妙案が、本を読むこと。
まずは料理サロンを運営するウー・ウェンさんの『シンプルな一皿を究める 丁寧はかんたん』 講談社 2018年
こういう本って何ジャンルになるんだろう。料理研究家の本だからレシピは確かに載っているけど全体のボリュームの2割くらい。あとはウーさんのこざっぱりとした料理、生活、日本と中国の食文化についての文章。
本を見てつくった蒸し豚
最近はstayhomeも手伝ってキッチンで本当にいろんなものを作っていた。インスタにその様子をあげると「丁寧な暮らししてるね~」というリアクションをもらうことがある。
実際には粉の入ったボールをひっくり返したり、スライサーで指を切ったり、オーブンから炭が出てきたり、フライパンから飛んでいった人参を拾ってフウーッとして食べたりしているから実感としてあまり丁寧な感じはしないけれど。
スパイスで作ってみたコーラ。頼りない味だった
「丁寧」って一体どういうことなんだろう…………その答えをくれるのがこの一冊、どどん!とはならない。実際にはこの本を読んでも丁寧が何たるか、説明はできないし、引き続きもやもやと考えている。でも、なんにでも通じることかもしれないけど、すぐに分かること、身につく物事はそんなにない。「丁寧」についてしっくりくる頃には孫が15人くらいになっているかもしれない。
以下、本から面白いと思ったところをいくつか抜粋。
子どもに「好き嫌いはいけません」と言って無理やりたべさせる必要はないのでは?という部分
確かに、私自身も小さい頃は給食をよく残す子だったのに、今となってはほとんど好き嫌いがない(昔はお刺身が苦手だったのに今は隙をみては鮨を食べたがる、高くつくオンナになった…)。
反対にあんなに大好きだった「ねるねるねるね」は、今はほとんど思い出すこともない。
栄養素とか難しいことを考えなくても、疲れた時には自然と酸味のあるものを食べたくなるし、二日酔いの時にはあさりの味噌汁、暑いときには冷えたキュウリとかトマトがほしくなる。
「クエン酸が疲労に効果的で…」みたいな説明がなくとも、ありのままの食欲は割と優秀に食材を選んでいるのかも。
***
簡単そうで意外と失敗談の多い焼きそばについては、
私は、冷蔵庫に余ってる野菜があるときどう組み合わせたらいい感じに消費していけるかな、といろいろ考えた末に謎の一品を生み出すことがままある。でも、そんなこと考えずにピーマンはピーマン、卵は卵として火を通すだけでいいのか。
冷蔵庫の中身を大集合させた料理
合理的かつ家庭で料理をする人に寄り添うような考え方が、この本の根底にはある。ただ一方で、ウーさんはこんなことも仰せになる。
ふむ。もはやこの本のタイトルは「丁寧は(食材をきちんと理解した暁には)かんたん」なのでは…
”かんたん”という甘いワードに惹かれた現代人代表の私には、ウーさんの「映えるテクニックはいらないけど、近道はないのよ」という声が聞こえた気がした(深読みしたがり)。
ウーさんが「丁寧はかんたん」と言うに至るまでには、数々の経験がそれはもう天高く積み重なっているはず。そう考えると、今の私がキッチンであたふたと試行錯誤しているのは、丁寧そのものではないけれど、私なりの丁寧の下ごしらえなのかもしれない。
…なんかうまいこと言おうとして先ほどからやや気持ち悪い文章が続いているので、最後は本の中からとても素敵だと思った一節を。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?