ごはんの本 ➀
食欲の秋、読書の秋、というけれど、私は年中無休で食欲をなだめすかし、読みたい本を小脇に抱えている。
本を読むというと、「偉い」「すごい」と言われることがある。
私の場合、小・中・高校の授業中には教科書の陰に本を立てて読み、通学のバスでは車酔いの吐き気をごまかしつつ読み、知り合いと行ったボーリングでは自分のターン以外で読み…といった具合に、大事な何かと引き換えに、本を読んできた。ある意味ではすごいかもしれないけど、おそらく、偉くはない。
最近は、もう少しTPOをわきまえて読書をするようになったものの(さすがにzoomのカメラの向こう側に本をセットして読むというようなアクロバティック技は使ってない)、外出するとき、ほんの一瞬でも読むチャンスがあるかもしれないと、常に本は携帯している。
ゲーム機を買ってもらった子どもさながらに、本によって生活がままならなくなることがある私にとって、秋は、ふんぞり返って、大腕を振って、我がもの顔で読書ができる最高のシーズンだ。「ま、読書の秋だからしょうがないよね」で説明がつく。
前置きが長くなったけれど、もうすぐ秋も終わりなので、最近読んだいくつかの本について書きたいと思う。
まず1冊目は、「ごはんぐるり」
小説家の西加奈子さんの、ごはんにまつわるエッセイ本。私は前にYoutubeやPodcastで西さんの声を聞いたことがあったので、目で文章を追いながら、脳内では西さんの関西弁が再生されていた。
このおかげで、普通に読むより”西さん感”が53倍くらいに高まった。もはや数回はお会いしたことがある気すらしてくる。
(個人的なおすすめ西さん音源は、 VOGUE JAPANのPodcast。過去回に西さんが登場していて、「これぞ人類愛」という感じの話が聞けて、心の栄養になる。)
さて、「ごはんぐるり」は、薄くて読みやすいし、とにもかくにも読んでみなはれ、と言ってしまいたいけれど、私が特に腹の底から共感した箇所を引用して、紹介に代えたい。
基本、女性はどんなメニューをオーダーしても、「いーねぇ」の言葉はくれる。だが、中に、真実の「いーねぇ!」があるのだ。大判コロッケや、から揚げにはない、真実の「いーねぇ!」が、ソラマメの天ぷらや、レンコンのピクルスにはあるのだ。
『ごはんぐるり』(オーダーの正解)
どうだろう。ソラマメ天ぷらやレンコンのピクルスは、もしかすると、お酒を飲む人の票が多く集まる「いーねぇ!」かもしれない。私はいわずもがな5票くらい投じた。
ちなみに、私が「いーねぇ!」と思うオーダーは、「トロたくの細巻」「しらすみょうが」「マイタケの天ぷら(抹茶塩)」あたり。
ワインの店なら、うーん、「タコのマリネ」とか「砂肝のアヒージョ」だろうか。いや違う、ちょっと真ん中すぎるかもしれない。
やっぱり、真実の「いーねぇ!」はそんなに簡単ではない。
と、こんな具合に西さんのごはんにまつわる短い話が集められている本。気取りのない、個人的な美味しいものへの接し方が、読んでいてほっとする。
さて次は、西さんと同じく海外暮らしの経験がある、ロシア語通訳の女性が書いた名著について書きたいと思う。(その頃にはまだ秋の気配が少し残っているといいけれど…)
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