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すこしだけ、すこしだけ、ずらして


嫌なことがあったら、モヤモヤすることがあったら、ひとしきりイライラしたあとに、試していることがある。

それは、「嫌な気持ち」や「モヤモヤ」「イライラ」を運んできた相手の、具体的な生活や、家族とのやり取りを想像することだ。

これから暑くなる。
北海道でも早い時節から真夏日を観測しており、今年の夏ももれなく暑くなりそうだ。照りつける屋外で、面倒だから手や腕で汗をぬぐったり、帰ったらすぐに麦茶をつくって飲もうとかんがえたり、心のどこかで夏の到来を喜んでいたり、そんな細かい気持ちの機微が私にもあるのなら、相手にもあるはずだと想像してみる。

私は短気な性格で、カッとなった途端に相手の一部分しか見えなくなる性分だ。ついこの間も、むしゃくしゃすることがあった。

お仕事を卸していたライターさんが「飛んだ」のだ。

「飛んだ」とは、ライター界隈でよくつかわれる言葉で、「納期直前になってライターと連絡がとれなくなる」ことや、「納期当日になってやっぱりできませんと言われる」ことなどを指してつかう。

ライター、とくにクラウドソーシングやWebライター界隈はとくにこの「飛ぶ」現象が多いと聞いていて、それでも、都市伝説か何かだと思っていた。いくら顔が見えないからといって、一度でもそんなことをしてしまったら信用に関わる。

多くのWebライターは、ネット上で本名も顔も明かしていない。私が知る中でも、きちんと実名や顔写真を表に出して正々堂々と仕事をしている人間は稀だ。そこには、万一のときのために、「隠れたり」「逃げたり」できるように予防線を張っているようにしかみえない。

(それでも中には、匿名のイラストアイコンできっちり実績を出している方がいることも確かなので、これは絶対的ではない)

だからこそ、匿名・イラストアイコンでライターとして活動をするのは、これからの時代ますます「変に疑われる」ことになるからやめておいたほうがいいと強く思う。

実際、私が被害を受けた相手も、匿名・イラストアイコンだ。

絶対にもう、匿名・イラストアイコンには仕事をふらない……。

と、思い出したらまた少しずつ腹が立ってきたが、それでも、そんな相手にだって「生活」はあるのだ。

私のように、暑かったら汗を流す。冷たい麦茶でも飲みたいと思う。命をかけても守りたいと思える家族や恋人もいるかもしれない。生活を守るために、満を持して始めたWebライターで、勝手がわからなかっただけかもしれない。

言葉にはあらわせないほど、後悔で死にたくなっているかもしれない。

想像力が問われる場面だと、いつも思う。すこしだけ、すこしだけ、視点をずらしてみて、相手も同じ人間なのだと最大限に想像してみるのだ。

それでもひかない怒りであれば、もう、諦めたほうがいい。


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