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ハードラックグルメレポート3
神戸市某所ラーメン屋
糖質がダイエットの敵だと言われて久しい。
脂質よりも糖質の方が体重がつくのだとかどうとか。
真実は各自で調べて欲しい。
ただ、昨今の研究ではむやみに糖質を食べないようにするよりも種類を厳選すべしだとか。
曰く、米は食べても良い。
曰く、小麦はいけない。
曰く、食べるとしても小麦ほ少なくするのが良い。
つまり、ラーメンはダメだが、クリームたっぷりのクレープはOKという事である。
やったぜ。
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多分この話を続けると誰かに怒られそうな気がするのでやめよう。
20年ほど前の事である。
友人と歓楽街を歩いていた。
昼時である。若い男が二人である。当然脂質と糖質を求めていた。
量は多い方が良い。
味は濃いほうが良い。
飾らない店が良い。
本能のまま、口に食道に胃に貪りつけるものが良い。
二人とも獣の目であった。
空腹とは斯くも恐ろしい。
長蛇の列を作っているかつ丼やの前を通りながら人数を数え待ち時間と己の腹の空き具合を測る。
並んで待つという選択肢は既に無かった。
胸の中ではじき出した答えに舌打ちをしながら店を通り過ぎる。
既にどれだけの時間を歩き回っているだろうか。
このままでは餓死するかもしれない。
あまり知られていないが、デブは1食抜くと餓死するのだ。平野耕太もそう言っている。
「北山君、この店はどうだい」
友人は不意に立ち止まって親指で暖簾を指した。
ラーメン屋である。
濃厚と書いてある。
醤油豚骨と書いてある。
席も空いている。
新装開店と書いてある。
花も出ている。
それが間違いの元だった。
居抜きであろう店内は古い壁と新しい家具がミスマッチしていた。
居抜きとは、前の店舗の内装をそのまま使用して新店舗とする事業形態である。
初期投資が少なく済むという特徴がある反面、以前の店の面影を残してしまうというデメリットがある。
スナックとかに多いのだが、ラーメン屋にも時々見られる。
つまりこの場所には以前ラーメン屋が有り、それが閉店し、新しくこの店を開店したという事である。
アルバイトであろう僕達と同年代の男性に注文を伝える。
濃厚醤油豚骨ラーメン。
餃子。
チャーハン。
各々好きに注文する。
外を歩き回っていたせいで空調の空気が心地よい。
運ばれてきたお冷を口に含み、ため息と共に出た言葉が
「まっ…」
「北山君!」
同じく水を飲んだ友人が僕の言葉を制する。
そのお冷はドブの臭いがした。
僕が幼稚園に通っていた頃、すぐ近くに大きな排水溝があった。
深さ1m位だったろうか。
途中から蓋がしてあり、暗渠になっていた。
よく、園の先生に排水溝に入らないように言われていた。
特に暗渠の中は迷路になっていて、一度迷い込んだら二度と出てこれないと言われた。
暗渠の中の闇は確かに恐怖を感じる物があり、それと同時に鼻を襲う独特の臭いは「この中に入ったら不衛生な環境で行方不明になって孤独死」という謎のリアリティを幼稚園児に感じさせていた。
その時の恐怖が今、確かに鼻腔に有る。
目で訴えかける
(君のもかい…?)
(ああ、俺のもドブの匂いがするよ)
(店を出るか?)
(いや、周りを見てみろ)
店主だろうか、腕を動かしながら厨房の奥から僕達を見ている。
客席には僕達以外誰も居ない。
誰も居ないのである。
昼時の!
休日の!
新装開店のラーメン屋に!
誰も居ないのである!
浮かしかけた尻を椅子に落ち着ける。
今するべき事は逃げる事ではない。
腹をくくる事である。
僕はお冷のコップを一瞥してそっと注文の品が来るのを待った。
・・・・・・・・・・・。
結論を言うと、ラーメンもサイドメニューも普通だった。
記憶に残らない味であった。
というより、それから何をしたのか全く覚えていない。
ただただ、ドブの臭いのするお冷だけが、記憶に残ったのである。
最近になって、その店の前を通る事があった。
『熟成!とまとラーメン』と書かれた店を見て
「やっぱり、居抜きされたか」と納得した。
とまとラーメン屋には怖くて入っていない。
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