それはダサい、といわれるけれど
ようやく3wayバッグを買った。
今まで、スケッチブックやパソコンや本を持ち運ぶときには横向きに入れたいけれど、ショルダーバッグとして肩に掛けるには量が多いので重すぎるという難点があった。入れやすく、持ちやすい、できれば安いとよい。休日なのに高校の後輩であるTさんを呼び出し、ちょうどいいバッグを探す旅に出た。
Tさんは芸術学科の学生で、おしゃれというよりもスマートなものを好む傾向にある。カバンも新しいものをとっかえひっかえして、カバンの中にたくさんのポーチを入れている。たくさんのものが詰まっていても外側を綺麗に見せることにかけては、とにかくこだわりがあるらしい。
そんなTさんを連れていくつかの店舗を見て回り、およそ値段の幅を見た。二万円かぁ……ちょっと高いな。初めてのものだから、機能としての水準を確認していく。まずは、背負えること、バッグはまだまだ2wayが主流のようで、良さそうに見えてもリュックになる機能がちゃんとあるか見る。次は大きさ、私のスケッチブックが入るかどうか確認していく。それから、手帳の入るポケットと……本は2冊入るといい。あとはパソコンを入れる場所、これはほとんどのバッグについていた。
すると、ちょうどいいバッグがセールで売られていたので、その中から選ぶことにした。デザインは2種類ありそれぞれ色違いで2種類の合計4つのバッグ。
「あ、いいな」と、思い、カバンを手に取り中を見ていると。
「えっ、それ?」
Tさんが言う。
なんだよ。私の選んだ子に何か文句があるのかよ。
「その色と形は、無い」
「なに、これダサいの?」
「ダサい」
店員さんの横でバッサリとダサい宣言を食らうバッグ。かたや私はそうしたセンスが一切無い人間なので、もう片方のバッグを手にとってこちらはダサくないのかと聞くと、比較するならまぁ、そちらの方がいいらしい。さらに色で言うならこちらの方がいい。その色は、無い。と念を押された。
私が手に取った方はポケットがたくさんついていて、ゴツゴツしていてかっこいい。スーツを着ることはほとんどないけれど、ちょっとビジネスバッグに似た趣がある。
一方、Tさんのおすすめは全体的にすっきり、つるんとしていてポケットが2つしかない。でも、ゴツゴツしてるやつよりはいろんな服装を合わせやすいそうだ。
他と合わせるとか見栄えを意識したセンスが、私には致命的に足りない。洋服だって着られればいいやと思っていたのがほんの少し前だが、今も少しマシになった程度で、高校時代に組み合わせてはいけない洋服のパターンを何度も教えてもらった。
それまでは、スイカみたいな柄のフリースを着ていたし、夏はメッシュ素材の半袖に適当なシャツを重ねたり重ねなかったりしていて、柄を一切気にしていなかった。今も、あまり気にしていない。めんどくさいし。
私からスイカフリースを卒業させたことは、恋人の功績として語られているが、あれを脱いだのはただサイズが合わなくなっただけで、未だに私はかっこいいと思っている。理解はまだ得られない。先日書いた恋人とつきあった日の話を彼女自身に読んでもらったときも「あの日もスイカ着てきたよね」と含みのある声色で言われた。ずいぶんと印象に残っているのか、もしくは根に持っているようだ。
このバッグだって、そんなにダサくはないと思う。うん。だって、ポケットいっぱいあるのかっこいいし。私は自分がかっこいいと思うほうを買って、そのままTさんとファミレスに入った。本題だったいくつかの作業を片づけて、新しいバッグにリュックの荷物を移し替える。うん、予定通りピッタリ入った、折り畳み傘だけちょっとはみ出てしまったけれど、まぁ、良いだろう。Tさんは私の向かい側で黙々とパソコンをいじっている。大学の課題を片づけているらしい。
私はもうすでに背負える状態になったバッグを眺めて、確かにTさんの言ったとおりちょっと無骨かもしれないなと思った。全面真っ黒というのが良くないのかもしれない。
「……カンバッジ付けようかな。女の子のやつとか」
全然最近のアニメは知らないので、話題のきっかけになってしまっても困るのだが、なにかアクセサリーをつけたくなった。
するとTさんはパソコンをいじる手をとめて、私の方を見た。
「……バッジつけるの?」
「え? うん」
「……バッジ……つけるの?」
2回目だ。これは、Tさん的には完全にナシなやつだ。バッジの種類がどうかではなくもう、このバッグに付属物を付けるということがTさんにとってはナンセンスなのだろう。ダサいとかではなく、もう有り得ないレベルなのかもしれない。Tさんの顔は「なぜその発想に至るのか一切理解できない」と言っているようなものだった。
でも、私はそんなに悪いものなのかなぁと思う。そうだ、もうこれは、女の子の好みが違う、みたいなやつだ。ピンと惹かれるものが全然違うのだろう。私はショートの女の子が好き、Tさんはロングの女の子が好き。あり得ないあり得ないなどと繰り返していても溝が埋まることはない。
しかし、バッジが良くないことは雰囲気から悟ることができた。わかった、バッジはやめよう。店員さんを呼び、2人して同じパフェを注文してから、Tさんが席を立った。
そこは、同じなのか。お前もフルーツヨーグルトパフェか。良いセンスじゃないか。
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