また会える。きっと会えるよ。
兵庫県に来てからというもの、Facebookをよく更新している。
こちらにきてまず、人と接する機会がほとんどないことに気が付いた。
「いかん、鬱になる」
大学で勉強したことは、こんなところで役に立つ。人と接触する量が少なくなると、うつ病に限らず若年性健忘症になるリスクも高まってくる。これからは、意識して人と関わる機会を自分で作っていかないと、どんどん元気がなくなっていって大変なことになる可能性もある。とにかく何でもいいので「ただいま」「おかえり」とか、コメントが付く場所をどこかしらで生み出すようにしないと、いろいろ支障を来すようになってしまう。
謎の危機感に襲われた私は、とりあえず兵庫県の様子や肉まんにカラシが付いてきて、そのカラシをちょっと押したら、ほぼ中身が全部出てたっぷり塗られてしまったことなどをFacebookに投稿した。
「ようこそ、関西へ!」
繋がりのある人たちの中には、関西が拠点になっている人がちらほら居た。
noteにも、引っ越した話を投稿した。
「地元が兵庫なんです」
「ようこそ!」
「いかついおっさんが、あめ玉を『あめちゃん』と呼ぶギャップに耐えてくださいね!」
あぁ、意外と人とのつながりってあるんだ。小さなワンルームでも、インターネットがあれば結構人と繋がっていられる。関西でも、人との交流を増やしていきたいけれど、でも、関東で過ごした人たちとの関係がそう簡単に切れないことがやっと実感できるようになってきた。
ピコン、と通知が光る。
「今日と明日、大阪にいるんだ」
年上の友人、Sさんからだった。
「会いましょう」
私は梅田駅へと電車で向かった。西の新宿と呼ばれる梅田は、本当に迷う。同じ場所を何回も通りながら、電話で位置を確認しあってようやくSさんと落ち合うことができた。
「もうしばらく会わないと思ってたよ」
Sさんと会うのは久しぶりだった。先日、イベントの運営を一緒にさせてもらって以来だけれど、もう何ヶ月ぶりかわからない。私も勝手に兵庫県に出てきてしまったので、もうほとんど関東の人と直接会うことはないだろうと思っていた。ところが、引っ越してからほどなくして、関東の知り合いと出逢ってしまった。
Sさんは相変わらずで「頑張ってる?」なんて、ちょっと大人っぽいことを言いながら、ネギ焼を奢ってくれた。
兵庫県に来た理由、就職先で何をするか、そんな話をした。Sさんも大阪に来た理由と、今やっている仕事の話をしてくれた。今は、駅弁を開発しているらしい。相変わらず、よくわからないことをやっている。
お互いに、初めて食べるネギ焼に苦戦しながら、ライムサワーを飲んだ。
場所を変えて二軒目。トマトの串焼きをSさんが一気にほおばって口をやけどした。私はそれを見て笑いながら隣の串を口に放り込んでやけどした。
そんなことをしていると、時間はあっという間に過ぎて、迷路みたいな梅田駅に再び戻った。自分が乗る電車の改札の場所だけはなんとなくわかるようになってきたので、ちょうどいいところでSさんと別れることになった。
「じゃあ、また」
「はい、また」
今度会うのは、関東だろうか関西だろうか。次会うのはいつになるだろうか。でも、そんなことは気にならなかった。
帰り道、電車の中でスマートフォンをいじっている時、写真を撮り忘れたことに気が付いた。ネギ焼をつついているところでも撮って、Facebookに載せようと思ったのに。
「でも、まぁ、いいか」
不思議とそこまでがっかりしなかった。
離れてはいるけれど、会えない距離ではない。
「また会いましょう」
それが、希望でも、社交辞令でもなく、本当にできるという確信に満ちていた。
思ったよりも、寂しくない。初めての一人暮らしは、実際の所全然一人ではないことを私に教えてくれているようだった。
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