飲み会マナー。心理戦。

飲み会のマナーを使うタイミングがわからない。

縁あって、いろんなおっちゃんたちと飲みに行く機会のある大学生活を送っている。しかし、そこでほぼ言われるのは「マジで気を使うのをやめろ」だ。サラダを取り分けようとしたり、ビールを注ごうとすると

「やめろやめろやめろ、気を使うな」

えっ、だめなのか、じゃあやめよう。と思うけれど。一方のおっちゃんたちは、ビール瓶が来れば私に注ぎ、ピッツァ(おしゃれなやつ)が来ては取り分ける。かえってこちらが萎縮してしまいながらも、「やめろやめろ」と言われては、どう身を振っていいのやらわからない。

そもそも、厳粛な飲み会マナーというのは、本当にあるのだろうか、式典ならまだしも、飲み会だ。身の回りのおっちゃんたちを見ていても、私の想像していた苦痛な飲み会マナーを目にすることは無い。もしかすると「ビールを注がれる側だった世代」と「ビールを注ぐ側だった世代」みたいなのがいて、今の30代40代くらいの人は、注ぐ世代だったのではないか。もしくは、世代に関係なく「注がれる人」と「注ぐ人」がまぁまぁの割合でいて、そういえばいつも注がれてるなぁ、いつも注いでるなぁと思いながらもだんだんと役割として定着してくるのだろうか。それとも、ただ学生に気を使われたくないというだけで、おっちゃんたちも会社の飲み会では後輩にビシビシ厳しくマナー指導しているのだろうか。謎は深まる。

しかし、飲み会は喫緊の問題だ。属性分析をかける間もなく飲み会そのものはやってくる。とにかく何とかしなくてはと考えた。

案1、それでも強引に取り分ける、ビール注ぐ。これは強い。ハートがすごく強い。おっちゃんたちは最初の一回だけは断るけどその後はやはり気を使って欲しいのかもしれない。そんな想いから、断られてもめげずにせっせと取り分ける案。

案2、自分が取り分けるついでに、おっちゃんたちのお皿を奪い去り、取り分ける。そして、自分のを注いだあとに相手のグラスにも注ぐ。これは、気を使っている度合いをやや下げた案。あくまでついでですよ、気を使ってるのではないですよ、という雰囲気を出しつつ、しかし、きちんと分ける。

などなど、ほかにも相手の様子をうかがいながら注文を取るタイミングだけ見計らう注文奉行になるとか。いろいろ考えるのだが、やはり正解が解らない。やめろと言われても困ってしまう。

しかし、おっちゃんたちの気持ちもすごく分かる。例えば私が後輩から「先輩、取り分けましょうか」とか「先輩、グラスが」とか「先輩、何か注文されますか」とかとかとかとか言われたとしたら。

「うるっせええええ! 気持ちはすげぇわかるよ! でも今日ワシはお主に店員さんをして欲しい訳じゃないんだよおおおお! ワシがメニュー取って、って言ったときに『すいません気が付かなくて』って言うのやめろおおおおおおお! 『あ、はい。どうぞ』とかで良いんだよおおお! こっちこそ雑談遮ってごめんねえええ! ピッツァ(おかわり)食べたかったんだぁ!」

……みたいな気持ちはある。

もっとこう、友達みたいとまではいかなくても、そんな、過剰に気を使われたら、ワシもあなたも疲れちゃうよ……。楽しんで欲しいのに、マナーに潰されてしまっては元も子もない。

しかし。またしかしだ、自分が後輩の立場だったら「先輩、先輩」と、やりたくなる。だからこそ、やめろと言われてどうしたものかと悩んでいるこの現状がある。それに「メニュー取って」と言われると私も「あ、すいません、気が付かなくて」と言ってしまう。

飲み会におけるコミュニケーション不全は深刻な問題で、じゃあそんなメンドクサいことやめてしまえばいいかというと、そうでもないのだ。ピタッとやめたとしよう。


さぁ、居酒屋だ。入った、席に着く、先輩がメニューを取る「ビールにしとくか」といって、後輩にメニューを渡す。「好きなものいくつか頼んで」と言う、取りまとめて店員さんを呼ぶ、飲み物といくつかのおつまみがオーダーされ、先にビールなどなどが運ばれてきて乾杯して、サラダなどが来て、それを各々取り分ける。唐揚げも来る、それを各々直箸で取る。モグモグモグモグ、おいしい。

こうして、先輩と後輩は完全に会話のタイミングを見失う。なんだこれ、私が後輩だったとして、この状況はちょっと耐えきれない、モグモグしながら唐揚げおいしいっすね、とか言えばいいのか。気まずい。先輩は自分でメニュー表を取って注文している。全く別々の食事を同じテーブルで取っているような気分になってしまうだろう。

飲み会マナーとやらは、無かったら無いで、気まずい。強要されて気分のいいものではないのは確かだが、突然消えてしまうのも困る。

もちろん、飲むのが気の知れた友達ならいい。それなら、ここにいない人たちの近況とか、この前の仮面ライダーは泣いたとか、最近恋人がね、とか、架空の愛人の話とか、話題はいくつもある。ただ、全然プライベートを知らない先輩に「先週の仮面ライダーはマジ泣きましたよ」なんて言えるはずもない。

となると、やはり。

「先輩、サラダ取り分けましょうか」とか

「先輩、グラスあいてますよ、何か注文されますか」に落ち着く。

そこから、ちょっとした話題がつながればいいのだ。

先輩「気が利くねぇ」

後輩「いえいえ、よく言われます」

先輩「お前、そういうことは自分で言わないんだよ」

後輩「あ、失礼しました」

先輩「ぎゃはは、お前名前なんだっけ」

みたいな、そんな、会話ができればいい。雑談のきっかけというのは、意識すればするほど難しいものになっていく。

飲み会マナーは、マナーそのものより、それをきっかけにいかに雑談に持ち込むかにかかっているのではないか。だから、雑談ができるならおよそ必要ない。ちょっとした接点を作るための気遣いだ。そう言う共通認識でいけばいいのではないか。ねぇ、先輩。

だが、飲み会の席でこんな、まどろっこしい話はできないので、やはり、心理戦は続く。

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