見出し画像

斗和キセキさんのクラウドファンディング祭りに混ざってきた。

バーチャルYouTuberという言葉も、すっかり世間には定着した。

よく知らない人も「3DアニメみたいなキャラクターがYouTubeで歌ったり喋ったりしている」なんて様子をサムネイルだけでも見たことがあるのではないだろうか。中に誰が入っているのかも分からないのに、作り物のガワに声を当てる人がいてそれを応援する人がいる。インターネット界に突然奇妙な風習ができたように見えるかも知れない。

これまで顔を出せば即死と思っていた20代から30代前半の人々。しかしニコニコ動画やYouTubeでは、顔出し、もしくはマスクをするなどして自分の顔を出して話す人も増えてきた。実名を出すところまで行かないまでも、段々と顔出ししながら活動する人が増えつつある……と、そこに突然、モーションキャプチャーとかいう謎の技術を持ち込み、表情なら作れるぜ! という猛者が現れ、笑顔は出すけど顔を出さない。表情も声もわかるけど、そこに実際の人はいない。そんな奇妙なパフォーマー、バーチャルYouTuberが現れ、月日が流れた。バーチャルYouTuberの数はとっくにポケモンの数を超えた。今や6000人くらいいるらしい。

その中のひとりに、斗和キセキさんという幸福か不幸か分からない女の子がおりました。

斗和キセキさんという女の子は「新しい世代を創る」といってデビューしたバーチャルYouTuberだと聞いている。ただ、私が初めて見たとき、彼女はなんかよくわからんガンダム(正確にはガンダムかどうか議論の余地が残るモビルスーツ)に似ていると言われ、いじり倒されていた。面白そうな人だなぁ、と思ってフォローした。動画も音楽の動画と企画の動画が一つずつ。それぞれ一回再生したあとは、しばらく音沙汰がなくなった。

しばらくしてTwitterを開くと、また斗和キセキさんがいた。今度は「仮面ライダーのラスボスみたいな登場の仕方だ」と言われていじり倒されている。その後カーナビになるとか、よくわからない動画を出していた。こうして思い返してみると、彼女のどこがどう好きなのか、まだちゃんと言葉にはならない。

ただ、ガンダムについてDMで語ってきたオタクに「知らねぇよバーーーカ!!」と悪態をついていたことを覚えている。そして、それがなんというか、すごく気分が良かった。キモいとか、即ブロックとか、なんなら私の趣味に興味を持ってくれるわけでもない。ただ「うっせぇよ! 私知らねぇし!」というのは、まぁ、せやろな。それは想定外だもんな。うん。ごめんな。という気持ちでいっぱいである。でも、似ていると言われたガンダムのプラモデルを買っているあたりから全く興味が無いわけではないし、仮面ライダーの話も少し調べてくれたようだ。

私はちょっと優しくされたり、自分の好きなものに興味を持ってもらえるとすぐに気が緩んでしまう。優しさを感じるラインも「存在を否定されない」というあたりだ。なので「なんかうるせぇのがいるな」と、ライダーオタクたちが認識してもらえている空間がちょっと好きだった。私も仮面ライダーが大好きだ。悪ノリがすぎる人達がいるのも知っているが、根本的に私も悪ノリを実行していないだけで心はそちらサイドの人間である。

応援してるんだか、騒ぎたいんだかわからない人たち。そして、その人たちに共感してしまう私。できれば、いつか混ざりたい。

彼女が「インスタをやるために斗和キセキのめちゃくちゃリアルな生首を作りたい!」というクラウドファンディング企画を打ち出したことを知ったのはゴールデンウイークに入る直前だった。目標金額は10万円。聞くところによると開始から10分もせずに目標金額には到達したそうだ。私が見たときには既に100万円は超えていたと思う。もう既に手助けはいらず、後はこのままゴールするのを待つだけ。

ただ、なんとなくモヤモヤする。何度かクラウドファンディングのページを開くと、私のブラウザはよほど私が斗和キセキさんを応援したいと思ったのかどこのバナーにも斗和キセキさんのクラウドファンディングページを表示するようになった。そして気まぐれに覗いてみると、大きく変動こそしていないものの着実にその金額は150万円、200万円と上昇していた。私はもう、何もしなくていい。その上にわかである。バーチャルYouTuberにもそんなに詳しくないし、斗和キセキさんのこともさしてよく知らない。ただ、歩けば何かとネタにされ、オタク達によって祭り上げられているちょっと不運な女の子である。

最終日直前、まだ私のブラウザはクラウドファンディングのページを広告として表示し続けていた。

「少しだけ、応援しよう」

でも、もう目標は達成している。今さら私が何をしても、そんなに影響はないかもしれない。インスタグラムもよく知らないし、出来上がった生首も何度使われるかわからない。それでも、元気をもらった特撮ファンとしてなにかお礼を返したい。

おせっかいかも知れないが、大丈夫だろう。

なにせ、彼女のプロジェクトページには500万円あれば純金にできるかもしれないし、1000万円あればキャタピラが付くかもしれないと書いてあった。具体的にどういう予算を立てているのかは全くわからないし、恐らくそんなことにはならないと思う。ただ、先日ガンダムで盛り上がったときにはプロデューサーさんが寝込んだらしい。動画では伊勢海老も使われていた。とりあえず、なにか役に立つこともあるかもしれない。予想を超えた金額が集まったのだから生首制作にあたっての打ち合わせ代として、使うこともあるかもしれないし、そこは焼き肉とか食べられるかもしれない。とにかく理由は何でも良かった。

純粋な応援の気持ちと共に、日頃迷惑をかけている気がする後ろめたさを精算するため、そして、すごくたくさんお金が集まったときどんな反応をするのか見てみたい。あと、サイン色紙がほしい。

そんな気持ちが入り乱れ、私は生首にちょこっとだけ支援をした。別に生首が自分のものになるわけでもないのに、私はクレジットカード番号を打ち込み、支援完了画面を眺めていた。特に後悔もない。少ない金額だったかというと、もうそのあたりの金銭感覚は麻痺していた。ただ、自分よりも大きい金額を投資した人は間違いなくいる。だから私はそんなにイカれてはいない。そんな気持ちもあった。

いろいろ考えた。昔「お金で遊んではいけません!」と叱られたような記憶。小さな会社に、たくさん資金が集まるとその使いみちでめちゃくちゃに揉めて、空中分解することがあるという情報。斗和キセキさんは「もうやめろ!」と言っている。その全てを総合した上で、それでも私はほんの少し投資した。

今盛り上がっているお祭りに、ほんの少しだけ関わってできればほんの少しだけ、お神輿にタッチしたかったのだ。

ただ、それが良いことだったのか。それはまだわからない。もしかしたら、私はお金を手に「もうやめろ!」と叫ぶ女の子に石を投げた一人だったのかもしれない。

「こんなはずじゃなかったのに……!!」

そんなふうに、思っているだろうか。斗和キセキさんだけでなく、プロデューサーさんも社長さんも社員さんも、お祭りの後の片付けを一挙に引き受けることとなった。果たして私のしたことは、過剰なおせっかいだったのか、支援の皮を被った暴力だったのか、それとも、斗和キセキさんが新たな世代を作る手助けになったのか。まだわからない。

ただ、私は昨日、応援以外の気持ちが混ざった支援をした。そして、斗和キセキさんの元にはそれも含めて14,757,500円の支援が集まった。それだけが今は事実である。また、斗和キセキさんのいる会社の資本金を超えたらしい。もうここまで来ると、どんなふうにこのお祭りが収束していくのか見当もつかない。

私が微かに触れたお神輿は、遥か遠くへ賑やかな音をかき鳴らしながら向かっていった。もう一瞬も、触れることのできない場所へと消えていく。そしてまた次に姿を表したとき「あぁ、良かった」と言えるかどうか。

出来上がった自分の首を、小脇に抱えてまた「お前らのせいだぞ、ばーーか!!」と叫ぶ斗和キセキさんが見られることを祈っている。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

ここまで読んでいただいてありがとうございました。 感想なども、お待ちしています。SNSでシェアしていただけると、大変嬉しいです。