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シズクのこころ|掌編小説


駅の南口へ向かって黒服たちがヌーの大群のようにザクザクと行進していく。

その大群は、僕の姿など見えてはいないのだろう、それぞれの眼には深い静寂と喧騒がみえる。

僕はそれから逃げるように小走りでコンビニ裏へと向かうと、いつもの彼がタバコを吸っていた。

白い煙は細い路地を抜ける前に、透明な空気と混ざり合い消滅し、周囲と混ざる。

それを追うように彼は上を向いていたけれど、ふいに僕に気がついて、笑顔で喋りかけてくれた。

「待ってたよ。」と、言いながら彼は僕に唐揚げを手渡してくれた。

僕は「ありがとう。」と一瞥してから、唐揚げを受け取るとそれを残さず丁寧に食べた。

すると彼は僕へ堰を切ったように、世の中の不平不満を並べて立てるので、「ウンウン、全くそうだ。」とか「君の言うことは正しいよ!」と、唐揚げの礼も加味して、少し語気を強めながら合いの手を打った。

すると彼はスッキリした様子で、「お前さ、オレんちに来るか?」と、僕の顔を覗き込んだ。

彼のその目はビー玉のような色をしていて綺麗だなとおもった。

半年間彼は僕にいろんな食べ物を与えてくれた。

僕は「うん!」と元気よく返事をすると、彼は僕を抱き上げて、優しく撫でた。

「いい名前を考えてあるんだ、雨の日に出会ったから、シズクって言うんだ。今日からよろしくな、シズク。」そう言う彼に僕は、「よろしくね。」と挨拶して、彼と一緒に笑った。





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