自分1人の力で作り上げた創作物で注目されたいーーかつて漫画家を目指していた茉河ユウさんが、向かう先
30代が近づくなかで人生の岐路に立ち、新たな道を切り拓こうとする人たちにインタビューしていく連載「それでも夢を追う理由」。3人目は、バーチャルライバー/バーチャルライターとして活動している茉河ユウさんに話を聞いた。
“アウトプットの方法は何でもいい/チヤホヤされるために頑張ってる”という茉河さんは、イラスト、執筆、VTuberと幅広く活動している。何でも人並み以上にこなせる器用さと柔軟性がある彼だが、一方で自立心が強い人でもある。漫画家を目指してイラストの専門学校に入ったが周りとの差を感じて自主退学、その後わずか1年で文系の有名私大に入学した。親に助けを借りることなく学費を払い、現在も奨学金を返済中だ。“他者は自分の道を阻む存在”と話しているところにも、自分の力だけで生きていこうとする強い意志がみえる。有名になりたいという欲望と、誰にも頼らず生きようとする信念。その狭間で揺れながら、彼は今を生きている。
漫画家になる夢を諦められずにいた
有名になりたいという思いはずっとありますね。いきなり暗い話になっちゃうんですけど、私、死ぬのがすごい怖くて。ほら、死んじゃうとみんな私の存在を忘れちゃうじゃないですか。それが嫌なんですよね。
自分のことを覚えてる人間をなるべく増やしたい。こんな最高な私のことを忘れるなんてクソだと思ってるから。だから何でもいいから有名になりたいんです。どんな活動でもいいから自分の名前を残しておきたい。今までずっと、何者かになった自分を想定してインタビューに答える姿とかめちゃくちゃ想像してましたよ(笑)。
漫画家になりたくて、中学は美術部、高校は漫画研究部に入りました。19歳のときには集英社に自作の漫画を出したりもしたんですよ。何も返事は返って来ませんでしたけど。
高校卒業してからはイラストの専門学校に入ったんですけど、すぐに周りのスキルの高さに打ちのめされました。あとは単純に学費が足りねーっていうのもあって、現実との折り合いをつけて専門学校は1年で辞めちゃいましたね。
音楽ブログをスタート「この道なら承認をもらえるかもしんねえって」
それから1年間勉強して大学に入りなおしました。親からは「お前の学費の面倒はもう見れない」と言われてたので、奨学金の助けを借りながら返済してるところです。
専門学校を辞めてからもしばらく漫画家になる夢を諦められずにいたんですけど、そんな時期に音楽ブログを書くという営みに出会いました。
19歳か20歳の頃だったと思うんですけど。当時は今よりも音楽ブログが盛んで、ブログから有名になる人が多かったんです。それで、自分も文章であれば "飯を食う”までとはいかずともチヤホヤされるぐらいにはなるんじゃないかなと思ったんですよ。選択肢が増えたというか。この道なら承認をもらえるかもしんねえって。そこから“面白そうなものがあれば何でもやってみる”っていうのが、人生の基本スタンスになりました。
今はVTuberとしての活動をメインにやってるんですけど、それも面白そうだからという好奇心から始めました。アウトプットの方法は何でもいいんです。とにかく自分1人の力で作り上げた創作物で注目されたい。チヤホヤされるために頑張ってるんです。
消極的だった学生時代、20キロの減量で変わった性格
学生時代はいつも教室の隅にいるような影の薄い存在でした。ヒエラルキーでいうと一番下。クラスメイトにはいるかいないかも把握されてなかったんじゃないかな。
当時、81キロぐらいあってデカかったんですよ。見た目をいじられて笑われることがどうしても嫌で、体型を気にして周りに明るく話しかけられなかった。それからダイエットして20キロぐらい減量したんですけど、今こんな感じで積極的になれてるのは痩せたことが大きいですね。
ただ今でも自分のことを社交的だとは思っていません。VTuberとしての明るいキャラクターもいつもの自分では全然ないんですよね。俯瞰で自分のこと見ながら「今この人すごいギア上げてんなー」と思うこともありますよ。普段は聞き役に徹するタイプですし、自分のことを曝け出すようなことはあまりできないんです。
来るものは拒まないので社交的にみられることもあるんですけど、実際自分とバイブスが合う人ってそこまでいないんじゃないかな。他者って自分の道を阻む存在として現れるじゃないですか。私はそう思ってるところがあるんです。だから組織で働くのも向いてねえとも思ってるんですけど。
「“やれ”と強制されることが一番嫌」
大学を卒業してからはシステムエンジニアとして働いています。何かを作り上げていくことには変わりないから少しは興味持てるかなと思って決めたんですけど、やっぱりダメですね。私は“やれ”と強制されることが一番嫌なんだなとつくづく実感しています。
小さい頃ってよく、お手伝いをしたら何かを買ってもらったりお小遣いをもらったりしたじゃないですか。アレって要は嫌なことをやった対価なわけですよね。私は、お金をもらった嬉しさよりも、嫌なことさせられた悔しさの方が重いタイプなんです。だからもう「仕事」というだけで嫌なんです。
成果を出して褒められても喜びをあまり感じない。ポジティブな評価をくだされようが、ネガティブな評価をくだされようが、私には何の影響もありません。
転職は一回しています。システムエンジニアって、ただプログラミングするだけじゃなくてプロジェクト全体を受け持つ職種なんですけど、前の会社では単純なテスト確認ばかりやらされて全然成長できる気がしなくて。エンジニアの職に就いたからにはいろんなことをこなせる総合力がないとなと思って、幅広く色々やらせてもらえる今の会社に転職したって感じです。
フリーランスの方が向いてるとはわかっていても……
性格的にフリーランスの方が向いてるとは思うんですよ。でも私の中で今の職を手放すという選択肢はないですね。有名になるために何もかも捨てて頑張るということはできない。
理由はシンプルにお金ですね。計画性がないので十分な貯蓄がないんですよ。VTuberも、執筆も、イラストも、やるからにはまずインプットが必要ですけど、映画を観るのだって、ゲームをやるのだって、音楽を聴くのだって結構お金かかるじゃないですか。今フリーランスになるために仕事を辞めたとしたら、俺2ヶ月で死ぬんで(笑)。そのぐらいの貯蓄しかなくて、この仕事を手放すわけにはいかないなと。
経済的に安定する保証があるならフリーランスになります。でもインプット分を賄えるほどの収入が得られるとは考えられない。原稿を一本書くためにどれだけの時間とお金がかかるかっていうのを考えたら、それだけで食っていくのは無理だなとは思いますよ。職を手放したら結局やりたいこともできなくなる。
理想は、今の仕事をやりながら少しずつ独立していくという流れなんですけどね。自分から(編集部に)アプローチしていくことも大事なんでしょうけど、アプローチしていいのかと歯止めをかけてしまう自分もいるので、まあ難しいですよ。
こういう話をすると、本気でやりたいなら実家に帰ってでも目指したらいいんじゃない?と言う人もいるでしょうけど、経済的な面で親は助けにはなりません。一番の支えになってくれる存在は全くもって頼りにならない。だから私は金銭のことを第一に考えてしまうんでしょうね。なんだかんだ私にはこの生活が一番バランスがいいんだと思います。仕事は辞めたいですけど。
一つのものを極める生き方に憧れたこともありますけど、それで視野が狭くなるのもよくないし、これからも面白いと思ったものには何だって飛び込んでいきたい。それで「芯がない」と言われようが、「芯がないのが私の芯だよ」って言い返してやるくらいの自信は持っているので。今後もこういう生き方を続けていくと思いますね。
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