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NO.5『骨折 part2』

前回の続き。ちょっと聞いて~

へっぽこ娘

そんな中、その後の状態を心配してくれたケアマネさんに母の状況を報告すると、部屋に置ける自立式の手すり、杖や歩行補助具などがレンタルできるというカタログを見せてもらい、レンタルベッドもあることを教えてくれた。足を痛めた母が一番大変だったのが布団から起き上がることだったので、まず思ったのがベッドだった。

でも実はこのベッドには私の苦い思い出があった。同居して間もない頃だったと記憶しているが、母に「これからはベッドの方が寝起きも楽だし、布団の上げ下ろしもしなくて済むからベッドにすれば?」と提案すると本人もそうするというので、電動で上半身が起こせて、しかも部屋を広く使いたい時は折りたためるようなベッドを見つけて主人と一緒にプレゼントしたことがあった。初めは喜んでいたが、本当に幾日もしないうちに「やっぱり布団で寝る方がいいから、これはいらないわ」と言い出したのだ。色々説得したが母の意思が固く、結局新しいベッドを処分したことがあった。母を思えばこそのプレゼントだったのに、とても悲しい思いをした私は、この時から今後絶対母にベッドは買ってあげないと心に決めたのだった。もしかしたら長年の習慣でベッドは落ち着かなかったのかもしれない。折りたためたとしても置いてあるだけで部屋が狭くなったりするのが嫌だったのかもしれない。理由を聞いても「嫌だ」というだけで私が納得するような答えは得られず、人の好意を無にするわがままな人というイメージだけを私に植えつけた事件だったので、今後欲しいと言っても絶対に母にベッドを用意するのは嫌だったのだ。でもその私が今回はベッドを用意してあげた方がいいのではと夜も眠れないくらい考えた。

レンタルでも買ってあげても良かったのだが、ふと思いついたのが3階にある息子が使っていたベッドだった。今は全く使っていないので、あれを1階までおろせばそのまま使えると思ったし、お金がかからないこともさることながら、たとえ「やっぱり嫌だから使わない」と母に言われたとしても前回ほど傷つかないだろうと自己防衛も働いたのかもしれない。今の状況にはベストな考えだった。早速次の日母に提案してみると、そうしてほしいと言うので、今運んであげれば今日から寝起きが楽だろうと思い、主人の帰りを待たずに私一人でベッドを分解し、3階から1階まで何度も往復して部品を運んだ。冬だというのに大汗をかきながら、さすがに腰が痛くなったが、母に楽になって欲しい一心で頑張ったのだ。その日は「ああよかったわ」と確かに母は言っていた。ところが、一日寝ただけで次の日は「何だかやっぱり嫌なのよ」と椅子に座って寝ると言い出した。そのひと言が私の琴線に思い切り触れる。ほら、これだよ。あの時と同じ。さんざん懲りたのにまた同じことの繰り返しじゃない。「どうして?何が嫌なの?」なんていう優しい言葉など出てくるはずもない。「もういい加減にして!お母さんがベッドで寝るって言ったのよ!もう知らないから勝手にすれば!」「いいわよ!こうして座って寝るから!」母も負けずに口答えする。「風邪ひいても知らないからね!」足を骨折している母にまたもや捨てゼリフを吐いて2階へ上がった。本当に可愛くない!昨日の自分の思いと労力がまた無駄になったと思って悔しくて涙が出る。それでもご飯を食べさせないわけにいかないし、寝る前のトイレも見てあげなければならない。ひと言も口をきかずに淡々とやるべきことだけをやった。本当に悲しかった。

朝母を起こしに行くと、椅子から降りた床に座布団を敷いた上で毛布にくるまっていて「寒い、寒い」と言っていた。「当り前よ!バカみたい!」と私はまた優しくない言葉をぶつけた。次の日も母はベッドでは寝ようとしなかった。仕方なくベッドから布団だけ床におろして寒くないようにしてあげて「今日は椅子じゃなくてここで寝てね。でも、もうベッドは動かさないよ。お母さんがベッドで寝るって言ったからわざわざ3階からおろしたんだからね」と諭すように言った。それがそのときの私の精一杯の対応だった。

今日はここまで。聞いてくれてありがとう。


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