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藤塚光政のPoint of View


五十嵐威暢アーカイブのWEBメディアPOINT OF VIEW。第二回となる今回は、先日行われた写真家・藤塚光政氏のトーク「写真家の視点:建築とデザイン」についてご紹介します。藤塚氏は半世紀以上にわたり、倉俣史朗氏や伊東豊雄氏、毛綱毅曠氏など数々の建築家やデザイナーの仕事を写真に収めてきたほか、五十嵐威暢氏との協働も数多く行っています。なお、このトークは企画展「見ているか?」の第二期開催に関連して、ラーニングプログラムの一環として行われました。
 
わたしたちは建築やデザインの作品を書籍や雑誌、インターネットを通して見る機会が多くあります。同じ作品でも、いくつかの写真を通して見たとき、それぞれに異なった印象を抱いた経験はないでしょうか。作品のイメージは、写真が持つさまざまな要素―どこにフォーカスしたのか、どこで、どのように撮られたのかなどによって大きく変容します。そしてもちろん、撮影された写真には写真家自身の興味関心、作品に対する解釈などが反映されているでしょう。言うなれば、作品を撮影する写真家は、メディアを通じて作品を伝える媒介者であり、同時にひとりの鑑賞者でもあるのです。今回のトークでは、こうした観点から藤塚氏の建築やデザインを「見る」視点について伺いました。
 
トーク前半では、藤塚氏のこれまでのご活動について伺いました。特に印象的だったのは、中原洋氏との共著『意地の都市住宅』(ダイヤモンド社, Part1: 1987, Part2: 1991)に収録された住宅写真についてです。多くの建築写真が人気のない純粋無垢な空間を被写体とし、建築そのものへとフォーカスする一方、「住む人の体臭が付着した建築を選んだ」と言うように藤塚氏は「住む」という営みをドキュメンタリーとして収めることを試みたそうです。仙田満氏設計の幼稚園などにおいても、縦横無尽に走り回る園児らを写しとる藤塚氏の視点は、建築と使用者の関係へと向いているように思います。
 
後半では、五十嵐氏との協働を取り上げ、お話いただきました。五十嵐氏がデザイン、藤塚氏が写真を担当された雑誌『室内』の表紙(1981-1999)は、毎号一点のプロダクトが掲載される特徴的なものでした。有名無名問わず選ばれたプロダクトからは、両氏の審美眼を垣間見ることができます。また、藤塚氏は五十嵐氏の代表的なシリーズのひとつであるアルファベット彫刻も数多く撮影されてきました。たとえば、海岸をロケーションとし、煽りの構図で接写された《ABSアルファベット彫刻 H》(1981)は実際のスケールから解放され、建築物のように写し出されています。砂場で遊ぶ無邪気な子どものように、自ら掘った穴に入り撮影したという当時のエピソードは、何事にも囚われずに作品へと向き合う藤塚氏の写真家としての姿勢を象徴しているでしょう。
 
自らの直観に基づき、それぞれの作品が持つ面白さを自由に追求する藤塚氏のお話は、「見る」という行為に宿る創造性を私たちに伝えてくれました。五十嵐威暢アーカイブは今後も学内外に開かれた学びの場を目指し、展覧会やラーニングプログラム、特別講座を行っていきます。今回の藤塚氏のお話が、自分自身の眼や感性で、建築やデザインを「見る」ことの重要性と、その面白さを知るきっかけになりましたら幸いです。

(五十嵐威暢アーカイブ スタッフ)鯉沼晴悠

五十嵐威暢《ABSアルファベット彫刻 H》(1981)  撮影:藤塚光政
当日の様子

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