新入社員研修を振り返る【2020】

4月から6月までの3ヵ月間で実施した新入社員研修を振り返ります。
研修はIT企業の新入社員向けの研修で、主にWebアプリケーションを作成できるようになるまでのプログラミングスキルを磨きます。
また、ビジネスマナーや3分間スピーチなど、社会人に必要なスキルの育成もする新入社員研修です。

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Zoomの導入を振り返る

私は新入社員研修の講師をするのは3回目ですが、例年までと大きく異なるのは、やはりコロナウィルスの影響です。
外出自粛要請などが出た場合、リモートでの研修になる可能性は否めませんでした。そこで、リモートになるという前提のもと、Zoomを導入して研修の準備をしました。
そして実際に一部の研修生はZoomを利用して自宅から研修に参加することになりました。
リモートで研修を実施するのは今回初の試みでしたが、Zoomを導入した研修をするなかで分かったメリットや課題、変化などをまとめます。

変化:画面共有を用いた新しい講義スタイル

Zoomを導入する前の講義は、プロジェクターを使ってスクリーンにスライド資料を映しながら説明し、ホワイトボードを使って細かい説明を書いていくスタイルでした。
Zoomを使ってリモートで講義をする場合、スクリーンやホワイトボードをカメラで代わり代わり映すのは無理があったので、講義スタイルを変更せざるを得ませんでした。
Zoomを用いた場合、画面共有を使ってスライド資料を映し、手描きで図を描きながら説明をしたい場合はiPadを画面共有にしてメモ帳アプリに描きながら説明をしていきました。

Zoomを使った新しい講義スタイルに切り替えたところ、思わぬメリットが2つありました。
それは受講生の視力を考慮しなくてもよいこと、そして講義のデータを残せることです。

メリット:受講生の視力を考慮しなくてもよい

プロジェクターとホワイトボードを使って講義をする場合、視力が悪くて前が見えにくい人は前の方の座席にしなければいけないなどの制約が生まれますし、文字もできるだけ大きく見やすく書く必要があります。
しかし、画面共有をするとみんな自分の目の前のPCでスライド資料と板書のメモを見ることができるため、視力を考慮した座席やホワイトボードの見やすさに気を遣う必要がありません。
これは画面共有の講義の大きなメリットです。
ただしこの場合のデメリットは、教室で講義を受けている人の人数が多くなった場合、ネットワークの負荷が大きくなってラグが生まれてしまったり、ネットワークが切断されてしまうリスクがあることです。
また、画面共有された画面を見る必要があるので、講義を受けながらPCでメモを取るのが難しいこともデメリットとして挙げられます。
画面共有をする場合、できるだけ1つの教室にいる人数を減らし、可能ならデュアルモニターを使って講義を受けながらPCでメモを取れる状態にすることが理想です。

メリット:講義のデータを残せる

もう一つのメリットとして、講義をそのまま動画として保存できるという点が上げられます。
Zoomの機能で録画機能があるため、ボタン一つですぐに録画することができ、カメラの位置なども気にせずに話の内容と画面共有を動画に残すことができます。
録画した動画をそのままYouTubeにアップすることで、復習用動画として提供することができます。
教室で講義をする場合でもカメラを設置して録画をしておけば同じことは可能ですが、Zoomだと圧倒的にその作業が楽で、大きなメリットだと感じました。

変化:チャットを使った新しいコミュニケーションスタイル

Zoomを導入したことで、講義スタイル意外にも大きな変化がありました。
1つ目は、コミュニケーションスタイルです。
最近は仕事をしていく上でSlackのようなチャットツールを使ってコミュニケーションを取ることは珍しくなくなってきました。
しかし、新入社員研修ではこれまで、研修生同士や講師と研修生の間でチャット用のコミュニケーションツールは導入していませんでした。
それがZoomを導入したことで、チャットも有効活用していくながれになりました。

まず、チャットを導入したところ、対面だと人見知りをしてコミュニケーションが苦手だけど、チャットだと気軽にコミュニケーションを取れる人が出てきました。
これは新しい発見でした。
また、チャットを導入することで、グループ単位でのコミュニケーション、ファイルの共有、連絡事項がやりやすくなりました。

また、講師と研修生とのやり取りでもチャットを使うことでいくつかのメリットがありました。
講師が特定の研修生と対面で質問対応をしているときにも、チャットで質問を投げることで、時間を有効活用することができます。
報告をしてもらう際にも、チャットを有効活用することで、時間を有効活用したり、報告の内容を忘れることを防いでくれます。
講師が個別で指導したい人に対しても、チャットを使うことでタイミングを気にせずに指導することができ、とても便利です。

メリット:自宅で学習する人が増えた?

これも、予想できなかった変化の一つですが、Zoomを導入することで、自宅学習をする人の割合が例年よりも増えたように思います。
これは、研修で使用しているPCの持ち帰りを許可した事が大きく影響しているように思います。
これまでの研修では、研修内で使用しているPCは会社で使用するPCと同じ扱いというスタンスだったので、持ち帰りは禁止していました。
しかし、今年はどのタイミングでリモートに切り替わってもいいように、研修で使用しているPCを自宅に持ち帰ることを許可しました。
すると、開発の環境がすでに整っているPCを家でも使用することができるので、環境構築の手間が省けて学習がしやすくなります。
また、Zoomが導入されていることによって、研修生同士でもリモートでつながりながら教えあうことができます。
こうした要因により、Zoom導入が結果として自宅学習の割合を増やすことにつながりました。
また、私自身、休日でもZoomでいつでも質問しても良いと言っていたので、休日の間に質問をしてくる人や、演習を提出したことを報告する人もいました。
そして休日に質問や演習をやった人は例外なく成績は伸びたので、これがZoomの導入による影響だとすると導入した効果はかなり大きいかもしれません。

課題:スピーチ力の向上

Zoomでの研修に切り替えて、特に難しいと感じたのはスピーチ力の向上です。
研修では3分間スピーチという、人前に立ってスピーチをする練習をします。
スピーチは、Zoomで参加しているメンバーはについては、画面共有でスライド資料を映しながら発表をしてもらいました。
時間管理や言葉遣い、スライド資料の読みやすさなどについては、Zoom越しでも評価することは可能ですが、やはり人前で話す時特有の緊張感が生まれにくくなります。
人前に立ち、聞き手からの視線を感じながら、前を向いて堂々と話す力を鍛えるという意味においては、圧倒的にリアルで対面しているときの方が大きな意味を持つと感じました。

課題:リアルでの対面する研修の価値

今回初めてリモートでの研修を実施してみて、慣れや工夫が必要とは言え、案外できるものだと分かりました。
ただ、そうなると、教室まで足を運んでリアルに対面して研修を受けるメリットとは何だろうか?
という問題を考えざるを得ませんでした。
研修会場で研修を受けるということは、通勤にかかる時間を奪われてしまいます。
であれば、通勤時間を奪われてでも研修会場に行くことで得られるものがなければいけないということ。
講義中の質問のしやすさ、雑談のしやすさなどは、リモートよりもリアルで会っているときの方が良いでしょう。
しかし、リモートでも慣れと工夫次第では質問も雑談も可能です。
つまり、それ以外でリアルに対面して研修を受けることの価値が求められるという事です。
それは例えば、講師自身が学ぶ姿や仕事への取り組み方を背中で見せてあげるだとか、人前で話す機会を多くするなどが考えられます。
リモートという手段が新しく出てきたからこそ、リモートでない既存の研修に対してリモートでは得られない価値を生み出す必要がありそうです。

まとめ:リモートでの研修は意外とありだが、工夫が必要

Zoomを使ったリモートの研修がありかなしかでいうと、研修を実施する側の意見としてはありです。
ただし、色々と工夫は必要です。
結論としては、全員がリモートになる、あるいは、リモートの方が教室にいる人数よりも多い場合はありだと思います。

まず、参加者全員がリモートの場合、特に問題ありませんが、教室で対面で講義を受ける人とリモートで講義を受ける人に分かれる場合が大変です。
やはりリアルに対面できる方が、雑談のしやすさや、周りの人への質問のしやすさなどが圧倒的に違います。
その点でリモートで参加する人の方が不利になります。
そして、画面共有を使って講義をする場合、教室にいる人の人数が多いとネットワークの負荷が大きくなるので、その点は教室にいる人の方が不利になります。
つまり、リモートの参加者が少なく、教室での参加者が多い場合、双方にとってデメリットが多くなります。

研修生側としては、リモートになると家での誘惑が大きく、研修に集中できなかったり、社会人としての意識が低下するリスクは高いように感じました。
教室で研修に参加していれば、同じ環境で頑張っている人の姿が目に見えて分かるので、モチベーションは保ちやすい環境になります。
しかし、リモートだと周りの研修生の頑張りを目の前で見ることができないので、自分の意志の強さでモチベーションが大きく左右されます。
そういう意味で、新卒(特に高卒)の人がいきなりリモートで研修を受けるのはかなりハードルが高いように感じました。

まとめると、教える立場からすれば、リモートによる研修も可能で、どれだけの結果が出せるかは運用の工夫次第です。

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カリキュラムを振り返る

今回の新人研修のカリキュラムはこんな感じ
ビジネスマナー
・学生と社会人の違い、名刺交換、電話対応、など
アルゴリズム
・フローチャート、ソートのアルゴリズム、など
Webサイト制作
・HTML
・CSS
・JavaScript・jQuery(軽く触れた程度)
情報処理基礎
・情報単位、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、セキュリティなど
Java基礎
・Java(演算、変数、配列、条件分岐、繰り返し、メソッドなど)
・JSP(動的Webページの表示、スコープなど)
Java応用
・Java(オブジェクト指向など)
・サーブレット、MVCなど
DB連携
・SQL(PostgreSQL)
・DB設計(主に正規化)
・JavaとDBの連携
フレームワーク
・Spring Boot(DI、JDBC、MVC、バリデーションなど)
個人開発
・個人でWebアプリ開発
・設計 ⇒ 実装 ⇒ 発表
開発工程
・開発工程、テスト工程
グループ開発
・5~6人のグループでWebアプリ開発
・基本設計 ⇒ 詳細設計 ⇒ 実装 ⇒ テスト ⇒ 最終発表
・Git、GutHub(グループ開発で使用)
その他
・3分間スピーチ(自己紹介、学生と社会人の違い、フリーテーマ)
・グループディスカッション(要件定義)
・週報
・日報

研修期間は約3ヵ月で、1か月分は個人開発とグループ開発で消えるので、講義として色々と教えることができるのは約2ヵ月。
全体的に時間が足りないと感じます。

ここからは各単元を振り返ります

JavaScriptはもっと時間が必要
今回、グループ開発でゲームの開発に挑むグループが多く、JavaScriptの知識がなくて苦しむ人が多かった。
そこまではもちろん予想できないのだけれど、もっと時間をかけてやりたい。

Javaももっと時間が必要
Javaではプログラミングの基本からオブジェクト指向までを扱っていきますが、それでも時間の都合上扱っていないテーマも多くあります。
もっと深いところまで扱いたい。

SQLももっと時間が必要
SQLはJavaに比べると講義の時間が少ない。
実践で使えるテクニックをもっと多く伝えたいが、圧倒的に時間が足りない。

DB設計ももっと時間が必要
正規化は多くの初心者が躓く壁。
もっとたくさんの演習をこなさなければ身に付かないのだけど、これも時間が限られていて、なかなか十分に身に付けさせるのは難しい。

フレームワークももっと時間が必要
フレームワークは例年ついてこれる人が少ないので、少ない日数でも良いかと考えていたけど、今年はそんなことはなかった。
むしろ、エラーがたくさん出ることで、デバッグ力を鍛えられた人が多かった。こんなことならもっと時間を取るべきだったと思う。

デバッグだけに特化した講義が必要かも
エラーが出た時にどう対処するのか。
エラーは出ないが、自分が思った通りに動かないときにどう対処するのか。
といった、エラーを読むスキル、デバッグするスキルだけに特化した講義や演習などを作成するべきなのかもしれない。
今現状は質問に来た人に必要に応じてデバッグの手法や考え方を教えているが、

GitはWebサイト制作時点で教えるべきだった
GitはWeb系の開発ではもはや欠かすことのできないツールですが、講義では扱わず、個人開発の時に使用することを推奨する形にしました。
しかしながら、個人開発も期間が短く、新しいことを学びながら開発する余裕がある人は少なく、結局、ほとんどの人がグループ開発が始まるときに初めて触ることに。。
その結果、グループ開発ではGitに苦戦する人が多発し、多くの時間を無駄にしていた。
Gitは講義の序盤から教えて研修の間で触る場面を増やしておくべきだったと感じた。

結局、どの単元においても時間が足りない。
ただ、詰め込みだけしても応用力が身に付かなければ意味はないし、本当は講師が細かく教えるよりも、自分だちが試行錯誤する中で気づいた方が良いこともある。
また、時間が限られているからこそ、勉強の仕方を工夫したり、高い集中力を発揮するなど、良いパフォーマンスにつながる可能性もあります。
だから、時間を増やして教えることを増やせばいいというものでもないのかもしれません。
時間をどこまで限定して、何を教えて、何を教えないのか。
永遠に答えは出ない気もしますが、そのバランスを常に考えながら改善していくことが必要なのでしょう。

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教室の設備を振り返る

PCとOffice
昨年度の研修では、使用するPCのスペックが低く、OfficeもMicrosoft製品ではなく、互換性のあるソフトを使用していました。
そのせいで研修生に不便をかけてしまった点もあったので、今回はレンタルPCで去年よりも性能が良いもので、かつOffice365をインストールすることにしました。
そのおかげで、開発や資料作成は昨年度よりも無駄なストレスがなく、開発がしやすくなったと感じます。
やはり研修の満足度を上げるためにはPCのスペックとツールは経費をケチらないことが大事ですね。

Wi-Fi環境
今年度の研修で1つ大きな問題だったのは、ネットワーク環境の問題。
私が普段教えている教室で20名以上の研修生が一気に入るのは今までにない経験だったので、ネットワーク環境がどうなるかは不安な点ではありました。
案の定、研修初日にネットワークがつながらないという人が続出。
ただ、この問題は、ルーターのDHCPの設定で、IPアドレスの自動割り振りの数に問題がありました。
この設定を変えてからはある程度改善されましたが、それでもちらほらネットワークが途切れることがありました。
特に、Zoomを起動した場合、回線が重くなることでネットワークが重くなることも多々ありました。
やはり人数に合わせて、ネットワークの増築が必要だという事を学びました。

エアコン
今回設備でかなりピンチだったのが、研修の途中で研修室のエアコンが壊れてしまった事。
これから本格的に暑くなってくるという最悪のタイミングでした。
急いで業者に見てもらったものの、修理が1週間以上後になるという事で、すごく焦ったのを覚えています。
エアコンは壊れてはいるものの、やはりつけないよりはつけていた方がよいのですが、窓を開けると外からの風によって意味をなさなくなります。
しかし、コロナの時期ということもあり、できれば窓を開けて換気をしたいし、マスクもしなければいけません。
ただ、そうするとコロナよりも熱中症で誰かが倒れてしまってもおかしくない状況でした。
そこからは家電屋さんで冷風機や扇風機を買ったりして、使えるものを全部使って何とか暑さをしのぎました。
エアコンが効かなくて暑くなると、頭が働かなくて、プログラミングの作業は一向に捗らなくなります。
頭を使う仕事の場合、エアコンがとても大事であること、そしてエアコンを定期的にメンテナンスすることが大事であることを知ることができました。

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研修生を振り返る

今年度の研修生は研修開始時には23名でした。
高卒、専門学校卒、大卒、中途など、学籍も職歴も様々なメンバーでした。
新人研修で高卒に教えるのは、私自身初の試みでした。

高卒と大卒の違い
研修で高卒に教えるのは初めてだったため、高卒と大卒で習熟度にどのような違いが出るかは興味がある点でした。
結果としては、全体としてみれば、大卒や専門卒の方が勉強期間が長い分、若干習熟度が高いように思う面もありましたが、結局のところ個人の地頭やプログラミングへの興味ややる気によるところが大きく、あまり差は感じませんでした。

アルバイト経験の有無の違い
高卒と大卒ではプログラミングの習熟度合いの相関は感じませんでしたが、1つ、研修に対する取り組み姿勢という点では、アルバイト経験の有無が大きく影響しているように感じました。
エンジニアでもそうでなくても、社会人として仕事をしている以上、他者の視点でも物事を考える力が必要で、それこそがビジネスマナーの本質でもあります。
ただ、アルバイトの経験がない人は、他者の視点で物事を考える力が低い(というか鍛えられていない)という風に感じました。
もちろん、大卒でもアルバイトを経験していない人はいるし、高卒でもアルバイト経験がある人は多いかと思います。
ただ一般には大卒の方がアルバイト経験者である確率は高いと思うので、その点での差が出ているように感じました。

お互いがお互いを高めあう環境
今回、研修生同士でお互いがお互いに良い影響を与えて、高め合っている印象の強い研修でした。
一般に、人数が多くなればなるほど理解度に差が生まれやすくなるし、評価する対象も多くなるので、研修を運勢する側としての負担は増えます。
しかし、人数が多いなかでもお互いが教えあい励まし合う環境ができるのであれば、むしろ研修中の講師の負担は減り、逆にやりやすくなります。
ただ、やはり技術面の細かい質問対応は講師の力が必要なことも多く、そういった点では人数が多いと難しい点もありました。
また、本来であれば1人1人細かくソースコードレビューなどを実施したい気持ちもありますが、人数が増えるほどレビューに時間を割くことが非現実的になってしまいます。
この点に関しては改善策を考える必要がありそうです。

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