「時間が解決する課題」と「時間が解決しない課題」

世の中には時代が進んでいけば勝手に解決する、つまり時間で解決できる課題と、時代が進んでも解決しない課題、つまり時間では解決できない課題があるようです。

基本的にはサイエンス(科学)とテクノロジー(技術)は時代が進めば進むだけ発展し、様々な課題を解決します。もちろん、サイエンスもテクノロジーも自然に発達するわけではなく、科学者や研究者、エンジニアという職種の人々が働いてくれているおかげで日々新しい発見や新しいモノが誕生しているわけですが。科学者・研究者・エンジニアという職種がこの世からなくならない限りは、時代が進めば進むだけ新たな発見やモノが生まれ、様々な問題を解決してくれることでしょう。

私は今社会人になって10年目で、社会人になってからずっとIT業界で働いています。IT業界は変化するスピードが速いというのは多くの人が認識していることだと思いますが、IT業界の中にいると本当にそのことを実感します。ハードウェアの性能、プログラミング言語、データベース、インフラ技術、Web技術、フレームワーク等々、IT業界を取り巻くほとんどの技術が私が新人だったころの10年前から大きく進化しています。10年前までは実現することが難しかった開発も、今では簡単に実現することが可能になったりと、時間の経過だけで多くの課題が解決されました。

ただ、システム開発のプロジェクトに関わっていると、プロジェクトにおける課題や成功率というのは10年前からあまり変わっていないように見えます。プロジェクトの中で発生する課題・問題というのは
・コミュニケーション不足や思い込みによる認識の祖語
・認識の祖語による手戻りの発生
・確認不足による手戻りの発生
・見積の甘さによる作業遅延の発生
・責任者不在のままあいまいに物事が進んでいく
・言った言ってない問題
・目的と手段の逆転問題
・etc...

プロジェクトというのは規模の大きさや関わる人数の多さによって難しさが変わってくるものですが、基本的にどんな規模のプロジェクトでも根本的な課題というはあまり変わらないようです。
最近になって久しぶりにそれなりに関わる人数の多いシステム開発のプロジェクトを経験していますが、そこで発生している課題・問題というのは、私が新人のころから経験してきたプロジェクトと何ら変わらない。
10年前と比較すると、プロジェクト管理ツールやコミュニケーションツールというのはとても便利になり、開発で使用される言語やツールも非常に多機能で便利になっています。にもかかわらず、開発プロジェクトの成功確率というのはおそらくあまり上がってはいないようで、ずっと同じような課題を抱えながら同じような失敗を繰り返してしまう。

何をもってプロジェクトを成功とみなすかはそれぞれですし、実際に統計を調査しなければ10年前と成功率を比較することはできませんが、直感的にはどうやらプロジェクトマネジメントの難しさは時間が解決してくれる問題ではないようです。

プロジェクトは結局のところ「人」が運営します。プロジェクトが成功するか否かについては、使う技術が何であれ、最終的には関わっている人材によって決まってくる。技術がどれだけ発達しても、それを使うのが人間である以上は、使いこなす人が必要になるし、技術を使いこなす人をゴールに導くためのリーダーが必要です。プロジェクトの成功確率はプロジェクトそのものの難易度などももちろん影響しますが、最終的にはどんなメンバーで構成されて、誰がリーダーになるかによって左右される部分が大きいのでしょう。

人が作るモノ(ハードウェアとソフトウェア)は、時代が進めばそれだけ進化し、様々な課題を解決してくれることでしょう。
しかしながら、人が中心となって回していく仕事(プロジェクトの運営、企業の経営、教育など)のノウハウは、ほとんどが時間によって解決されることはなさそう。時間だけで解決できるような世の中の課題というのは実はとても少ないのかもしれない。
書籍な動画などのコンテンツは時代が進めばそれだけ量が増えるので、有益な情報を得る手段は時間によって増えていきますが、根本的な問題解決力や何かを生み出す力というのは、経験から知見を蓄積してそれを応用することができる人材を育てるしかないのでしょう。

何事も経験することが大事とはよく言いますが、本当に大事なことは経験したことを一度振り返り、そこで得た知見を抽象化して応用できるようになることでしょう。経験はもちろん大事ですが、経験をした後に知見を蓄積する能力と習慣を早く身に着けることが、課題解決には不可欠です。

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