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韓国映画の中の「外国人労働者」像

ゼノフォビア。
外国人嫌悪と訳すとフォビア=恐怖を見過ごしてしまうんですよね。入管にヒドい目にあった? 何をバカなことを言ってやがる、さっさと自分の国に帰ればいいだけだろうが!
って噴き上がるひとたちは典型で、ああいうのって「嫌悪」より「恐怖」のほうが勝ってるように見えるんです。
樹上で生活していた大昔、知らない種に遭遇したら動物的本能が警戒信号を発したわけでしょ。敵? 味方? 知らない奴、コワい!
そうした衝動を押しとどめて理解しようと「努めてきた」のが、コミュニケーションする動物としてのヒトだと思っているので、ゼノフォビアに囚われるありさまは後天的に獲得してきた虚飾が剥がれた……あ、前置きが長いね、すまん。

映画というフィルタを通して自分たちヒトの、そうしたあられもない姿を見ることは、ゼノフォビアの愚かしさへの認知につながると考えています。
そこで本稿は、「そういうつもり」で鑑賞すると興味深い3本の韓国映画を紹介したく。ヘッダー画像(すべてIMDbから)左から『ワンドゥギ』(2011)、『僕たちはバンドゥビ』(2009)、『バンガ?バンガ!』(2010)。この順で。

本題の前に、もうちょっとメジャーな作品からウォーミングアップを始めましょう。韓国映画歴代興行記録4位の大ヒット作品、『国際市場で逢いましょう』(2014)。
某邦画の韓国版よね、と気乗りしないまま見ていたら(主演ファン・ジョンミンが好きなの)西ドイツの炭鉱に韓国人が出稼ぎに行く時代(1960年代)~海外からの出稼ぎ外国人を韓国の若者たちが軽視する時代(1980年代)を描いて、前者の当事者だった主人公に後者の情景はどう映るか。
ってシーンがあって、へー。となった印象が残っています。

もうひとつ、個人的にすぐ思い出せる作品として『私の少女』(2014)。

2010年代、都市部でないエリアだからこそ色濃く残るLGBTQ+への無理解とミソジニーを主演のペ・ドゥナのみならず、映画を見ているだけの俺たちもぶつけられる、という秀作ですが、全編「田舎はこれだからしょうがない」みたいなエクスキューズ付きとはいえ、外国人蔑視の空気がちらほら描写されます(なお何も解決はしない)。

「韓国映画は外国人労働者をどう描いているか」というお題で連想するのが上記2タイトルぐらいだった私、2011年の興行成績第3位のヒット作が驚くほど正面から外国人への視線を扱っていたことを遅ればせながら知って、このnoteを書き始めました。そう、ここから下は知ったかぶりオンパレードなので、おまえも知らなかったんだろ。って思いながら読んでいただくと丁度いい感じ。

ワンドゥギ(2011)

主人公の高校生を通して「ふつうの韓国人」が見て見ぬふりをしている外国人への・障害者への・貧困への差別的意識を真っ向から取り上げています。
あくまでフィクションらしい手法とはいえ、最後までトピックの面倒を見ているところが、前述2作との大きな違い。
「労働力としての出稼ぎガイジン」をいかに社会の構成員とみなしていないか、us(我々)とthem(彼ら)って分断すら不可視だったまま、2021年になってようやく日本人が正視するようになった課題が、十年前の隣国の映画でストレートに扱われていると知って、心のへえボタンを連打した私。
何が良いってユ・アイン、キム・ユンソクの配役ですよ。それこそ菅田将暉と有村架純が主役みたいなもので(え、俺なんか変なこと言った?)メジャー感が凄い。

原作は2008年刊行のYA小説。その日本語訳者のブログもあわせてどうぞ。

僕たちはバンドゥビ(2009)

ワンドゥギは主人公の名前由来なのですが、バンドゥビはベンガル語でan intimate female companion(親密な女性の仲間)の意味だとか。
だとしたら「僕たちは」ではなく「彼女は」バンドゥビ、が正確では、と思うのですが、サンスクリットまでさかのぼると「異性の友人」ニュアンスが濃くなるとかならないとか、まあ邦題にケチをつけるのはやめよう。

映画制作年が2009となっていますが、韓国に就労目的で入国するには2国間協定を結ぶ必要があって、バングラデシュからの渡韓が可能になったのは2008年。1500人ぐらいの第1陣がやって来た、まさにそのタイミングで作られたことが分かります。
こういう言い方をするのもナンですが、技能実習生に「さっさと国へ帰れ」って言う今の日本人とそっくりな韓国人がたくさん登場。
主たる物語はバングラデシュ人労働者と韓国人女子高生の交流ですが、店で買い物した釣銭は手渡されず品物の上に置かれる、バスや電車ではもちろんじろじろ見られる、素性を尋ねたヒロインの母親は「ロシア人だったら、黒人だったら、同じ質問してるの?」って娘にキレられるなど、なるべく見ないようにしているゼノフォビアの細部がデリケートな手つきで拾われていくため、真顔にならざるをえない。
インディー映画らしいインディー映画なので、そういうつもりで見る必要はありますが、最初から最後まで自分に正直な(=口が悪いともいう)ヒロインのおかげで、ドライなユーモアと感傷がちょうど良い具合に混ざっていて、個人的には好感持ちました。なお、とあるシーンのせいでR指定です。

バンガ?バンガ!(2010)

就活に敗れた韓国人の若者が、むしろ外国人労働者としてなら勤められるのでは、と気付き(実は2021年のいまも正規ルートでの就労はできない)ブータン人を詐称することで職を得る。そこで出会う外国人労働者たちとの交流、および入管との戦い。
いやー自分のことを棚に上げて言うんですけど、これもっと知られていい作品ですね。日本社会でたびたび(悪い意味で)話題になる、外国人技能実習制度についてもこのレベルのエンターテイメントの登場が待たれる。


と最後、隣国をうらやむ口調になったものの、日本映像界も頑張ってはいるので(昨年の収穫は地上波連続ドラマ『MIU404』#5、が持論です)国籍や在留資格ではなく、ヒトとして「外国人」をとらえることができる日本人は今後も増えていくんだと思っています。ええ、願望込ですけどね。

※『カム・アンド・ゴー』(2020)は正確には日本/マレーシア共同製作


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