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となりの人 〜『おはよう、しっぽ』の感想〜

自分のとなりにたまたまいた人が、人生になにかの影響を与えるということがあります。

いきなり私の話になりますが、ここ数年立て続けに信頼を置いていた人に突然ぶった切られるという経験をしました。(冒頭からすみません)
相手にも事情があってのことだろうし、それ以前にぶった切ったつもりもないだろうけど、もうあんなことはもう起きないで欲しいと願っても続いてしまうと自分を否定してしまいます。

「どうせ私なんか」

私の名前は永沼敦子ですが
”スネ沼スネ子”が発動し、誰もわかってくれない誰も私のことを必要としていない、私のことなんて誰も・・・と中年だけど幼い子供のよう。
落ちるところまでマイナスまで落ち、なんとか0まで戻るけどまたすぐマイナスに落ち。そんなことを何年も繰り返していたら次第に飽きちゃったんです、落ち込むことに。
元々少し図太い性格が中年になりさらに太くなったのかもしれません。
心はビリビリに破れていますが、それはもしかしたら自分で勝手に破いてしまったのかもしれない。ビリビリになったことを誰かのせいにしたけど、何かの”はずみ”かもしれない。
ビリビリの心をどうやって自分の体につないでいこう。
つなげるもの。
意外だったけど、それはまた人と向き合うことでした。

『おはよう、しっぽ』
著者:川瀬はる
発行:文藝春秋

なにかドラマチックなことが起こるわけではなく、淡々とした日常が描かれているようでもあるけど何かじわじわとくるんです。自分の中にあった小さなトゲがそっと抜けて心が軽くなると言うか。登場人物みんながいろんなことを抱えて生きており、その人々の裏側も描いているので混沌としそうな場面も、かわいくもありホッとさせる絵が世界を清くして軽くするすばらしい作品。

私はとりわけ「土屋さん」が大好きになり何度も読み返してます。
いいんですよ、ラストの土屋さん。じわっと涙が出ました。

主人公は図書館の図書修復室で働いているムギ。
作中で作業に使うのり作りが出てきます。でんぷんの粉を水から弱火で透明になるまで練り上げるのり。

「すーぐダマができちゃうのよねえ そうすると全部の補修に影響しちゃうのよ」

魔女が魔法の薬を作っているような場面。のりは大事。かたさ、濃さ、そして使うときの溶かし方。

本を読んでいた人が何かの”はずみ”で破いてしまったのかも。ワクワクしながら地図を広げたはずみでビリビリになってしまったのかも。

ご年配の方々(おばあちゃんズ)がムギの先輩であり同僚。おだやかな作業の時間を過ごしていたけど、年が離れている故か「おせっかい」のような出来事でムギは傷ついてしまいます。

なんと、著者である川瀬さんのnoteアカウントで『おはよう、しっぽ』が一部無料で読めるようです。ぜひ。

でもこの本の魅力はできるなら実際に手にとって欲しい。とてもめくりやすいんです。「寝っ転がって読んで欲しい」担当編集者さんの思い。
ということなので、やってみました!ベッドで。笑
軽いからあまり手に負担がこない。すごいです、この本。(力を抜いて読んで欲しい)
それだけではなくとってもかわいい!ぜひカバーを外してくださいね。わあ~ってなります。
きっと主人公ムギの「のり」はグミかな?(かたさ重要よね)たくさん敷き詰められています!

すてきな本をありがとう!川瀬さん

私、実は東京で川瀬さんと同僚だった時期があります。
彼女が先に働いていらっしゃったので先輩か。
となりの席でいつも優しく仕事を教えてくれました。
私たちのうしろには大きな大きなガラス窓があり、そよ風を感じたり、風が強いときは窓際に置いていた書類が飛ばないようにあわてて二人で押さえたり。自然環境が東京23区とは思えないエアポケットのようなところで、仕事が終わって門を出る下り坂にある木々が風に揺れて、気持ちいいねえ~って言い合ったり。


カーブがある緩やかな坂道はみんな好きだったはず


坂を見上げると、


坂の横にはホタルブクロ おそらく今咲いてます


門の横にはランタナの滝


お昼休みの私の散歩道(余計な情報)


職場ではいろんな話をたくさんしました。
すぐに思い出せるのはなぜか日焼け止めクリームのこと。
肌にたたき込むように塗るといいそうですよ、とアドバイスをくれたことが強く残っており、
クリームを塗る時々川瀬さんを思い出しフフってなるときがあります。
なにそれ、って感じですがそういうのってありません?小さな思い出。

あと、体や心のこと。
川瀬さんはいつも穏やかに私の話を聞いてくれて、内容はすぐに思い出せないけどきっと心のことだからその場で自分の何かが軽くなり、それはそこで終了して次に行けたのかもしれません。そんな力が彼女にはある気がします。
だから自分のことをペラペラと話していました。
だから読まない理由はない。
『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』は川瀬さんの第1作目です。

ものすご〜く不器用な主人公
でも読み進めるうちに自分と重ねたりして。きっと誰もが内側に持っている軋みだったり。

この作品からの『おはよう、しっぽ』は続き物のように読みました。
いったんクローズしていたところが開き、光が射し、いい方向に生まれ変わるというか。再生。

以前、youtubeのおすすめで『NEW ME』というタイトルの曲が出てきました。新しい自分?その時はうまくつかめなかったけど、老いるのも新しい自分だよなって勝手に解釈してます。だって『おはよう、しっぽ』に出てくるおばあちゃんズも知らなかった自分を見つけそれを受け入れています。人は毎日毎秒、歳をとっている。おばあちゃんズだから私にはより一層響いたのかもしれません。

最後に。
えらそうなこと言えないけど、私は常々、自分のとなりにいる人幸せになってほしいと願っています。”いま”となりにいる人。特に何かができるわけではないけど。私のとなりにいた川瀬さんの幸せはもちろん祈りつつも、次のすてきな作品が産まれることも願っています!


*本の帯を俳優の伊藤沙莉さんが担当されています。一見、俳優とはすべてを持っていそうなイメージを持たれがち。伊藤さんの意外な言葉にもしかしたら自分と一緒のところがあるのかな、ってなんだかホッとしたうれしさが。彼女が主演のNHK朝ドラ『虎に翼』いいですね、すごくいい。
あのシーンで変顔って・・・、余計に泣けてきました。

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