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あの頃、この頃、おんがくの話。

わたしもあの時代に生まれたかった。
オレもあの時代を生きたかった。
特にその時代の文化や芸術に感銘を受けた時、人はそう思う。

 マツコの知らない世界-昭和ポップスの世界。
 あの番組に出演していた2人の若者もまた、自分が生まれる前の時代に憧れ、羨ましいと言っていた。
 彼らは言う。「あの時代は皆が同じ歌を歌えた。」「今はそういう歌はない。」「歌を通じて仲間意識が生まれる。」

 私は歌が好きだ。幼少期、気づいた時にはアニメの主題歌を歌っていた。呼吸を止めて1秒あなた真剣な目をしたから〜♪タッチの歌だ。テレビを見るなという言葉とは裏腹にタッチだけは毎週欠かさず見ていた母親の影響だ。そして小学生のとき、母の薦めで合唱団に入った。

 中学生、合唱コンクール前の音楽室。私の大好きな「遠い日の歌」は、3年生の教科書に載っている課題曲だった。私は2年生だった。その日、クラスの自由曲を決めることになった。「遠い日の歌を歌いたいです。」一番最初に手を上げた。「あれは3年生になったら歌えるでしょ。」先生は即座に却下した。翌年、遠い日の歌は中学三年生の音楽の教科書から消えた。私が私の一番好きな合唱曲を合唱できる日は来なかった。私はあの音楽教師を今でも恨んでいる。

*   *   *

 時を同じく90年代、日本の音楽業界は最盛期を迎えた。100万枚のミリオンヒットは当たり前、トリプルミリオンなどという言葉も飛び交うようになった。CD全盛期。あの頃、流行はテレビが作るものだった。

 HeyHeyHey、うたばん、Mステ、ポップジャム、そしてASAYAN。
今、若者に大人気のK-POPの本拠地である韓国では盛んに音楽番組が放送されているようだ。日本にはない表現だが、新曲を引っ提げて各音楽番組に出演することを「カムバ」と呼び、連日同じ顔ぶれが揃う。オーディション番組も大人気。まるであの頃の日本だ、と私は思う。
 Produce48の人気ぶりは、あの頃のASAYANを彷彿とさせた。モーニング娘。のオーディションの様子を毎週放送する。若き日のナインティナインが司会をしていた。ASAYANの放送内容はいつも月曜の朝の教室の話題を掻っ攫った。
 
 みんなが同じ歌手を好きで、みんなが同じ音楽を好きだった。オリコントップ10は誰もが歌えた。ミスチルが一番好きだったけど、ミスチルが好きなのなんて当たり前だった。ミスチルが好きだと言いながら、GLAYのJIROがカッコいい、ラルクがカッコいいとキャーキャー言った。カラオケでは安室ちゃんやあゆにSPEED、華原朋美やglobeを歌った。曲を覚えるためにCDを買う。そのためにバイトをする。シングル1枚1000円。一曲を1000円で買う時代。私たちは完全な消費者だった。

*   *   *

 先日学生時代の友人たちとオンライン飲み会をした。今流行りのzoom飲み会をやろうと友人からグループラインが来たことがきっかけだった。久しぶりに顔を見て会話をして、お互い変わらないね、なんて話をした。
 近頃あいみょんに心を鷲掴みにされている私は、きっと彼女たちも、と期待を込めながら「最近はどんな曲が好き?」と話題を振ってみた。
 ここ数年で話題になっているアーティストの中で私が好きだなと思うのはあいみょんと米津くらいだ。セカオワやback number、official髭なんとかとかking gnuなどは良さがわからない。それが年をとったということなのかと嘆いている私に1人の友人が言った。
「king gnuめっちゃいいじゃん。」

衝撃だった。

 彼女は高校時代からの友人だ。一緒にカラオケに行った人ランキングというのを作ったらダントツでトップに君臨する人だ。週1回か2回。多い時は3日連続でカラオケに行った。もののけ姫の歌を合唱の歌唱法で披露すると「はりつめた〜」というワンフレーズだけで大爆笑する人。当時、彼女は浜崎あゆみやglobeの曲ばかり歌っていた。そういう曲が好きなんだと思っていた。

 別の友人が言った。「私はUruが好き。」
知らなかった。Uruという歌手も、その友人がそういう曲が好きだということも。

「私はあいみょんが好き。」
そう言うと2人は「えー!!」と言った。
どうやらあまり良いイメージではないらしい。
名前で食わず嫌いをしているようだ。私も最初はそうだったけれど。
「私の青春時代にあいみょんがいたら、絶対アコギ買ってたって思うくらい好き。」と言うと彼女たちはさらに驚いた。「そんなに??」

 あの頃、あいみょんみたいな歌手はいなかった。アコギを抱えてカノンコードを奏でることは「古い」「ダサい」と言われた。大ヒット曲Tomorrowを歌った岡本真夜は一発屋と言われ、その原因はデビュー曲にカノンコードを使ったことだと言われた。カノンコードは日本人の心に一番響くメロディラインだとされる一方、歌手にとっては禁断の果実と揶揄された。

 同じ時代を生き、同じ音楽を共有してきた友人たち。青春真っ只中の学生時代、親よりお互いを知っていた。一緒に歌を歌って、笑い合った。それでも彼女たちは私の好みを知らなかったし、私も彼女たちの好みを知らなかった。ショックだった。私は友達の好きな音楽も知らなかったのかー。

*   *   *

 イントロが流れただけで、みんなが一斉に歌い出せる歌がある。
それはそれで、幸せなことだと思う。けれどその一方、流行りの歌を口ずさむ私たちの横で、窮屈な思いをしながら生きた人もいたかもしれない。

 今の若者は選択ができる。
好きな音楽を好きと言えるし、流行は自分たちで創っていける。
アニソンが好きだという人と苦労せずにその想いを共有できる。
 彼らが昔の世代を羨ましいと思うのと同じように私も彼らの世代を羨ましいと思う。個人が尊重され、自分と違うことを当たり前に受け入れられる世代。好きなものを選択できる世代。

 いつの時代もその時代を生きた人にしか分からないことが沢山ある。
今若者と呼ばれる彼らが歳を重ねたとき、その目に今の世界はどう映るだろう。
昔はよかったな。でも今もいいな。そう思えたなら、いいな。


おわり。


ーおまけー
マリーゴールドはイントロを聞いただけでみんなが歌える歌になれると思う。もうなってるか。

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