米澤穂信「いまさら翼といわれても」を読んで

米澤作品と出会ったのは、10年ほど前のことだったと思う。図書館で「秋季限定栗きんとん事件」という浮いたタイトルを見つけてしまった。ペラペラと数ページ読んでみると面白くて止まらなくなり、結局そのまま上下巻借りて徹夜して読み切った。次の日にこれが米澤穂信の「小市民シリーズ」の第3巻だと知って、「春季限定いちごタルト事件」「夏季限定トロピカルフルーツ事件」を読み終えた。その後、長編は「ベルーフシリーズ」以外ほぼ全て読んでいる。先日、古典部シリーズの第6巻「いまさら翼といわれても」が2016年終りに出版されていたことに気づき、今朝紀伊国屋に直行して読んだ。

米澤作品には「インシテミル」や「折れた竜骨」のような本格ミステリ作品もあるし、青春モノや地方史に重点を置いた作品もある。大まかに言えば青春モノと探偵モノの間を行ったり来たりしている。

米澤の初期の作品や古典部シリーズに通底するテーマのひとつは、「他者への関心」だと私は考えている。この傾向は、「本格派探偵モノ」を狙った作品ではやや弱くなるけれど、彼の真骨頂のひとつである日常の謎や青春モノではこのテーマが強く出てくる。最近、先輩の准教授と「他人への関心を教えるのって難しいですよね」という話をしていたのだけれど、地域研究や歴史学をやっている私が米澤作品に惹かれたのは「他者」にアプローチする彼の手法だった。

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アジア研究、特に東南アジア研究の前線の話がかじれます。 それから、大手の出版局・大学出版局から本を出すことを目標にしてる人たちには参考になる内容があると思います。良い研究を良い本にするためのアドバイス、出版社との交渉、企画書の話など。

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