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[エッセイ] 大人の余裕に憧れる

 アメリカのドラマ『FRIENDS』の中で好きな台詞がある。

 "Monica, pigeons learn faster than you."

 訳すと「モニカ、鳩のほうが君より物分りが早いよ」である。頑固で一度自分が思い込んだことを曲げないモニカに対して、ユーモアたっぷりのジョーイが皮肉るシーンだ。

 僕はこのセリフが大好きで、自分のことを嫌いになりそうなときに、
「おいおい、冗談よしこさんよ。俺よりも鳩のほうが物分り早いまであるでほんま」
とカスタマイズして自分に投げかける。一種のおまじないで、無理矢理にでもこの言葉を口に出すことで、「冗談を言っている」という事実が生まれる。大好きな冗談だから自然と肩の力が少し抜ける。それに、Google Map使っても迷子になるから、方向認識力においては本当に鳩に負けている気がする。

 僕は年上の友人が多い。この文章を読んで彼ら彼女らはきっと「いやいや、褒めすぎよ」なんて言うだろうけれど、自分が惨めでちっぽけに感じるほどに彼ら彼女らは素敵に見える。というか実際に素敵だ。その魅力は、肩書でも収入でもなく、彼ら彼女らが乗り越えてきた人生の場数から放たれている僕は考えている。僕とは比べ物にならないほどの苦労を重ねてきた彼らの人生には説得力がある。

 人生にイベントが起きる度に、てんやわんやで大騒ぎしている僕を見て「それは大変だね」と笑ってくれる。同情でも憐れみでもない。「そういう事あるよね、知ってる」という事実の提示。その提示が僕の心をこの上なく自由にしてくれる。「なんや、俺だけちゃうんか」と思える。

 僕は、彼ら彼女らのような大人になりたい。

 どれだけ悲痛な事件が自分の人生に起きようとも、それを既知のものとして軽く受け止めてくれる人がいると孤独が和らぐ。孤独が和らぐと、元々備わっていた心の治癒力が増し、闘志が再び燃え上がる。そうやって、周りの人の背中を優しくぽんっと押せる人になりたい。小綺麗な言葉だけじゃなくて、人生そのものから滲み出る説得力で、背中をぽんと押したい。

 だから、鳩より物分りが悪いからと言っていつまでも友人たちの好意に甘えるわけにはいかない。僕だって人間なんだから鳩に負けっぱなしでは居られない。
 正直、今この瞬間も自分の嫌いなところはたくさんある。言葉を過信していること。すぐにイキり散らかしてしまうこと。そして、自分の感情に振り回されるきらいがあること。

 そんな嫌いな自分におさらばして、余裕のあるイケてる大人になりたい。そのために僕がいますべきことは、心に余裕を持って「大丈夫、また次がある」と冷静に自分の失敗を受け入れたり、自分から損切りをして次に進む心構えを学ぶことだと思う。

 

頂いたお金は美味しいカクテルに使います。美味しいカクテルを飲んで、また言葉を書きます。