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アルマーニの香水をつける理由

先日、僕は誕生日を迎えた。
24歳無職男性から25歳無職男性に、無事に成長(というか退廃)した。
幸運なことに友人たちにも祝われて、

「人生、こんなはずじゃなかった…」

と、夜深い時間に部屋で1人しくしく泣くような僕でもさすがに嬉しくなった。

貰えるなら、物とお金、どっちを貰いたいか問題。
これまでの人生で13回ほど議論した覚えがある。

結論から言うと、僕は物の方が嬉しい。
時代は移ろいで行くもので、今回の誕生日は友人たちからPayPayに結構なお金が振り込まれたりした。
嬉しくはあるけど、どこかモヤモヤする。
人から貰ったお金というものは、自分の苦労が伴わないから結局は悪銭身に付かずの域を出ない。給付金だって気づけば蒸発していた。最近暑いから。

貰ったお金で何を買うにしても、
「あーーこんなことにお金使っちゃっていいのかな…」
と、背徳感が付き纏う。
家や車の頭金とか、結婚資金くらいにしか胸張って使えなくない?
貰ったお金でウイスキーとかビールとか肉とか買いづらい。。。

そんなことで、誕生日に貰ったお金には手を付けられていないし、本当に生活が困ったときに大事に大事に使おうと思う。何か使う言い訳がないと使えない。だからこそ、

「うたたネは拘りが強いから気に入ってもらえる物を贈れないよ。」

なんてことはありえない。
僕のことを思って贈り物を選んでくれたという過程がもうプライスレスだ。それを思うだけで白米三合は食べられる。
お金で買えない価値がある。マスターカード。

今年も贈り物もいくつか貰えた。
その中に香水があった。
送り主の友人は、4年前から毎年誕生日に同じ香水をくれる。
アルマーニの香水だ。
初めて貰った時のことは今でも覚えている。大学二年生の頃だ。

その頃の僕は、某千代田線沿線の坂道アイドルを熱心に追いかけていた。
そして、好きなアイドルとお揃いの香水を意味もなく使っていた。
香水に性別があることも知らないで。
そして、ある日それをサークルの友人に指摘された。

「うたたネって彼女と同棲してるの?」

「ふぉ?してへんわ。」

いきなりのことで意味不明な音が口から出た。

「いや、うたたネからいつも女の人の匂いがするから。てっきり、同棲してて洗剤とか柔軟剤の選択権を彼女に剥奪されたのかなって。」

「え?同棲すると洗剤の選択権を剥奪されるの?」

「されるでしょ。洗剤だけで済まないよ。」

「えぇへぇ…」

「うたたネは特に女性の尻に敷かれそうだし。」

「ほんまか…」

僕はその時、大阪の地にいる父親に思いを馳せた。
親父…あんたもお袋にいろいろ剥奪されて生きてきたのか…
可哀想に。。。

まだ死んでもない絶賛存命中の父の顔が、見上げた初夏の青空に薄っすら浮かんで見えた気がした。

僕は友人に正直に、推しメンと同じ香水を使っていることを伝えた。
ブランドも伝えた。すると、友人は手際よく調べて僕の香水を特定した。
(当時は何も知らなかったけれど、僕はサンローランのものを使っていた)

「へーいいの使ってるのね。しかも、オードパルファムじゃん。」

「おーどぱるふぁむ?」

そこから香水の種類のレクチャを受けた。
オードトワレ(Eau De Toilette)が一般的であることも教えてもらった。

えあうでといれっと?なんかトイレの消臭剤みたいな名前だな。〇林製薬とかの商品でありそう。」

「…馬鹿なの?」

何も考えずに女性ものの香水を使っていたこと、香水のことを何も知らなかったことが恥ずかしくて、誤魔化すためにふざけたけど大スベリした。
冷ややかな視線が向けられているのを感じて、僕はしばらく友人の方を向けなかった。

「あ、そうだ。今使っている香水を頂戴よ。うたたネには正直合わないし。その代わりに何か香水をあげるから。交換ってことで。」

「え、や、人に使いかけのものをあげるのが良くないことは流石に分かる。」

「そこは分かるんだね。気にしなくていいよ。このまま合わない香水つけるのも、放置して香水が痛むのももったいないじゃん。」

「うーん…」

「明日持って来て。」

「わかった。」

次の日、サークルの部室に行くとその友人が待っていた。
僕はせめてもの抵抗で、使いかけの香水を箱に入れて渡した。
すると、受け取った香水をカバンにしまった友人は、同じカバンから今度は綺麗に包装された箱を取り出して僕に渡した。

「はい、これ。遅れたけど、誕生日おめでとう。」

僕は固まってしまった。
家族以外から贈り物付きで誕生日を祝われたのは人生で初めてだったから。

「ごめんね遅れちゃって。誕生日いつなんだろうって思ってFacebook見たら誕生日先週だったからさ。遅れてでも良いから誕生日プレゼントをあげようと思って。」

「ありがとう…」

「開けてみて。」

「もう少しだけ見ててもいい?」

「え?何を?」

「この包装を。綺麗だから。」

僕は完全に感極まっていたので、そんな意味不明なことを言って黙り込んでしまった。目にはもう表面張力の限界まで涙がたまっていたし、あと1gでも優しさが追加されたら号泣していた。
それに、淡い水色で統一されてリボンのついた包装は本当に綺麗だったし、今でも実家に大事に取ってある。
友人は泣きそうな僕の様子を察したのか、何も言わずに部室で一緒に三角座りをしてくれていた。

しばらくして落ち着いたので、開けてみることにした。その中には、アルマーニの香水と香水を小分けにして携帯する為のアトマイザーが入っていた。

「ちょっと振ってみて」

僕は言われるままに香水を一振りした。

「どう?気に入った?」

「うんめちゃくちゃいいよ。」

「ちなみに嵐の大野くんもこれ使ってるらしいよ。」

「えぇ…使いにくくなるやんか…」

「ほらやっぱりね、そういうとこだよ。うたたネは自己肯定感が低いからね、代わりに私が肯定してあげる。うたたネはアルマーニの香水を身に纏うのに値する人だよ。これから毎年誕生日に贈ってあげるから、この香りを嗅ぐ度にそのことを思い出して。」

僕は感激のあまり泣いてしまった。
泣きながら、言葉にもならない「ありがとう」を何度も言った。

「はい、ハンカチ。」

「ありがとう…うぅぅぅぅ…でもハンカチはうぅぅ持ってるぅぅ。」

「そういうとこちゃんとしてるよね。」

「ハンカチはうぅぅぅ常に…ぅぅぅぅ二枚持てってお袋がうぅぅぅぅ(号泣)」

「分かった分かった、もう無理に喋らなくていいよ。」

号泣する僕の横で、友人は大笑いしていた。
そして少し泣いていた。

「ちなみにこの香水も分類としてはウィメンズ用だよ。」

「うぅぅ話が違う…さっき渡した香水返してうぅぅぅぅ」

「はははははは泣いていてもツッコミはするんだね。もしかして私今、大阪人の意地を見てるのかな?」

「うるさい…ぅぅぅ」

僕は友人から「粋」というものを学んだ。
「粋」というものは「お金」と「時間」の使い様だと思う。

ちなみに、その友人へのお返しも毎年同じものに決まっている。
あの時に渡したサンローランの香水だ。
新品を買って、一度開封して一振り使ってから贈っている。

そして、
「使いかけの香水を贈る人いるぅ?」
というクレームの電話を笑い飛ばす。










頂いたお金は美味しいカクテルに使います。美味しいカクテルを飲んで、また言葉を書きます。