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コミュニケーションポルノとコンテンツ

ネットには言葉が多すぎて、もう毎日ぼくたちはいっぱいいっぱいだ。でもなんだか最近は、ネット上から「コンテンツ」と呼べるものは減っていて、誰に伝えるでもない「ひとりごと」ばかりが増えたような気がしている。

コンテンツ、というのは広い意味で言っていて、「それを媒介にして何かを伝えようとしている表現」という意味くらいにとらえてほしい。映画とかアート作品とか広告とかだけじゃなくて、例えば「昨日すごいことあってさ!」と始まる友だちの話、なんかもコンテンツだと思う。ストーリーとか物語を運ぶものがコンテンツ、と言えるかもしれない。

コンテンツが「ひとりごと」と違うところは、受け手がいるかどうかということ。つまり、受け手がどう受け止めるか、ということを最初から想定して作られているものがコンテンツで、受け手のことを特に考えないのが「ひとりごと」ということ。

コンテンツの受け手は、それを見たり聞いたりしたとき無意識に、送り手がそこに込めた気持ちやメッセージを想像している。例えばラジオ。アナウンサーがロケに出て食レポするようなとき、アナウンサーは言葉を尽くして、その場所がどこで、どんな風に見えて、どんな人がいて、店の内装はどんな感じで、女将さんは誰に似ていて、店に漂うソースの香ばしい匂いがどうとか、見えないものを見えるように一生懸命に伝えてくるときに、リスナーであるぼくたちは聴きながらその光景を想像して、脳内で映像化していると思う。実際には知らないその美味しそうなお店が、頭の中に浮かび上がる。アナウンサーが伝えてきたストーリーは、受け手が想像力で補うことでコンテンツとして完成する。

ぼくは、この「想像」という行為がめちゃくちゃ大切だと思っていて、これが無くなってしまうとコンテンツどころかコミュニケーションそのものが成立しなくなるとすら思う。逆に、想像力を激しくドライブしてくれるようなものが、良いコンテンツであると考えている。

大泣きする赤ちゃんが、なんで泣いてるのかを一生懸命に想像して考える。デート中に相手が見せたふとした表情の、向こう側にどんな気持ちがあるのか、一生懸命に想像する。お客さんが、何に困っていて、何を迷っているのか、必死で感じ取ろうとする。そういう一切の能動的な想像こそが、ぼくたちのコミュニケーションを成立させている。人間はそもそも社会的生物だから、コミュニケーション無しには生きられない。だから想像力は、ぼくらの生存本能だ。

なのにどうしてコミュニケーションを生まない「ひとりごと」が増えているのか?

ぼくはそれは「いいねボタン」のような、錯覚コミュニケーションを作り出す手軽な方法が増えたことと関係していると思う。コミュニケーションポルノ製造装置と言うか。

「いまどこそこにいるよ〜!」みたいな、何を誰に伝えるでもないひとりごとに、一瞬にして数百人から「いいね」がついたりする。そうすると、コンテンツじゃないのにコミュニケーションできてるような錯覚が生まれる。対話のようなものが成立したかのような気になって快感になる。でもそれは、やっぱり錯覚に過ぎないと思う。つり橋理論のドキドキとおんなじ種類の錯覚だ。ポルノであって、セックスじゃない。実際のところ、送り手にストーリーがないし、受け手の脳内にも何も結像していない。そこには互いに十分な想像が働いていない。

相手にどう捉えられるか、向こう側を想像しながら組み立てられたストーリーを運ぶコンテンツを受け止めた受け手は、想像力で補完してそれを理解したら、今度は自分で新しいコンテンツを作り、それを投げ返す。この繰り返しが対話であり、社会的コミュニケーションだと思う。コンテンツ化したときに、想いの100%の純度は保てないけど、その不完全さこそが相手に想像力を起こさせるし、互いの想像力を信頼するところに強い人間関係が出来る。想像という行為をすっ飛ばしたところにコミュニケーションは無い。

だからもう一回、ぼくらはコンテンツを積極的に作っていかなくちゃダメだ。コミュニケーションポルノに耽溺している場合ではない。

コンテンツの両側にいるひとびとを、想像力という接着剤で結びつけることで、コミュニケーションは深くなり、その先にはコミュニティが生まれていく。人の想像力を信じること。他人の想像力をリスペクトすること。100%伝わらないかもしれないという不安定な前提のうえでも、ぼくらはコンテンツを信じて、ストーリーを交換し続けないといけないと思うのだ。

コミュニケーションでコミュニケーションは生まれない。コンテンツがコミュニケーションを作るんだと、ぼくは信じている。

(Photo by Alex Jones)


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