見出し画像

SIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)で得た「自分が自分のリーダーになる」という考え方

昨年の夏から、マインドフルネス瞑想をおこなうことを習慣にしている。母が認知症専門医院に緊急入院し、父がひとり実家に残された後に孤独死し、「家族」という今まで揺るぎないものと思っていた形が崩れはじめた時に、激しく揺さぶられる心を客観的に見つめ、静けさを保つのに役に立った。身につけておいて良かったと思う。

知りたくなったらとことん調べて体験してみるのが趣味でもある私。もっと違う方面からもマインドフルネスへの学びを深めたいと思っていたこともあり、ずっと気になっていた「SIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)」を受講してみた。今回はその感想を綴ってみたい。

個性とリーダーシップ

画像1

「マインドフルネス」と言えば「Google」という企業名が出るほど、マインドフルネスの発展は同社と切り離せない関係にある。「SIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)」も、Google社が開発した、マインドフルネス・神経科学・エモーショナルインテリジェンスを融合し、ひとりひとりの個性とリーダーシップを探求するためのプログラムだ。

日本では一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュートが日本語で提供している。

「個性」はわかるし発揮したいのだけれど、フリーランスで仕事をしている私に今さら「リーダーシップ」は関係あるだろうか…部下やスタッフを抱えているわけではないし…バリバリの企業人しか参加しないのでは…正直、そんな気持ちを少し抱いての参加だった。

心理的安全性の守られた場所

プログラムは毎週火曜日19時から2時間15分のオンラインウェビナーが6回、それが終わると28日間の実践サポート(毎日メールでその日に実践する内容が送られてくる)、そして終了ウェビナー約1時間で構成されていた。

毎週のウェビナーでは聞くだけでなく、少人数のグループで例えば「マインドフル・リスニング(意識を集中し優しい気持ちと好奇心をもって話を聴くこと)」をおこなったり、個人で「ジャーナリング(自己認識を深め、自分の考えや感情をより深く理解するために書くこと)」をおこなう実践の時間が多く設けられている。SIY中に聴いた話はこの場のみにとどめ、外では話さないといった約束をあらかじめしているので、心理的安全性が守られた場所だ。

画像2

私の参加した回の参加者は約20名。Zoom上なので名前は表示されているけれど、どこに住んで何をしている方なのかはわからない。グループになったからといって開示する必要もない。話す中で自分が必要性を感じれば少し補足すればいい。この距離感が、様々なセミナーでの「自己開示が前提のグループシェア」が少し苦手な私には心地良かった。

マインドフルネス=「気づいていること」

SIYではマインドフルネスを「being aware=気づいていること」と定義している。マインドフルネスとは、という問いへの答えは様々に尽くされているけれど、この「気づいていること」というのは簡潔でわかりやすい。マインドフルネスの実践には欠かせない「瞑想=心の筋トレ」という表現にも、なるほどと思った。

また、SIYにはマインドフルネスだけではなく、エモーショナル・インテリジェンス(EQ)と神経科学も要素に入っている。EQとは俗に「心の知能指数」ともいわれ、パフォーマンス、リーダーシップ、幸福感を高め、複雑な世界をナビゲートするのに役立つ。神経科学とは「科学的根拠と、検証された実践法」を提供するということだ。

オンラインセミナーは6つのパートに分かれて順に進んで行く。

1.マインドフルネス
2.自己認識
3.自己管理
4.モチベーション
5.共感
6.リーダーシップ

理論を聞きながら、様々な実践をおこなう。聞いているだけでは深まらない自己認識が少しずつ深まり、時には意外な自分に出会うこともある。

画像3

たとえば、「生きていると感じさせてくれることは」という3分間のジャーナリングで私は次のように書いた。

朝のさわやかな空気が窓から入ってくる/猫が両側でくつろいでいる/母の眠っている顔を見ている/喉が渇いたときに自分の淹れた冷たいお茶を飲む/新しいことを知る/山や森で思い切り空気を吸う/おいしいご飯を食べる/猫がおなかの上に乗ってくる/美しいものを見たり言葉を聞いて心が動く/美しい夕焼けを見る(2021.6.29)

見てわかるのだが、見事に「仕事」の要素がない。私は感覚が心地よい時に「生きている」と感じるのだということが初めてわかった。

また、「今、私の人生で一番大切なことは」という3分間のジャーナリングでは以下のように書いた。

自分のための時間/ゆっくり思索し、本を読み、好きなことを書くための時間/私を支えてくれる猫たちと過ごす時間/母の残された時間を悔いなくコミュニケーションする時間/体力作り、そのための時間/人や企業のためだけに時間を使わないこと/良質な睡眠/心穏やかなたくさんの瞬間/健康な心身(2021.7.6)

時間、時間とばかり書いている「時間が足りない」と思っていることがよくわかる。ジャーナリングはあれこれ考えず一定の時間内にひたすら書いていく手法。自分の本音に向き合うおもしろい実践法だと思った。

これでもかというほど最高の未来

画像4

「モチベーション」の回でもジャーナリングを実践した。その内容は「これでもかというほど最高の未来」。5年後に最高の未来が来るとしたらどうなっているか、という問いだ。これは時間が6分取られ、私は次のように書いた。

・ウェルビーイングセンターの経営者になって、マインドフルネス、メンタルケア、ヨガ、リトリート等で、世の中の特に女性の心身ケアができるメソッドと機会を提供し、小説やエッセイや本で発信している。
・この時私はとても満たされ幸せな気持ち。ずっとバラバラにおこなってきたことがようやくひとつにまとまったと納得している。
・苦労したけどようやく夢が実現できたね、あなたのところで働きたい、いろんなものが抜けてスッキリ悟ったようになったね、幸せそうだねといわれている。

普段うっすらとしか思っていなかったことを手が書いたので驚いた。マインドフルネスやポジティブ心理学、セルフ・コンパッションを学んでいるのはそのための道のりなのかと自分なりに納得した。

この学びでは「自分の価値観と一致していることがモチベーションを生む」「期待が結果を予言する」という言葉が印象的だった。また、モチベーションの維持にはレジリエンス(回復力)が大切なのだということも知った。

自分自身のリーダーになる覚悟

最後に学んだのは懸念していた「リーダーシップ」について。私は今、誰かに対してリーダーシップを発揮する機会に恵まれていないので、SIYを学ぶ意味があるのかと心配していた部分だ。

ここで私は心打たれるハッとする言葉に出会った。「リーダーシップとは、周囲に対する影響力であると同時に、自分に対する影響力でもある」というのだ。

画像5

オンラインウェビナーで毎週学び、次のウェビナーまで毎日学んだことを実践し、そろそろ自分が「being aware=気づいていること」という状態に近づいてきたかな、と思っていたところで出会った「自分に対する影響力」という言葉。

ここで私にとってのSIYの学びが明確になったと思った。私にとって発揮しなければならないリーダーシップとは、自分自身に対するものだったのだ。なんという大きな気づきなのだろう。これまで私は自分のリーダーになりきれていなかったのではないか。人生は自分自身で作り上げていくものなのに。

SIYで学んだことを小さな紙に書いて掲げるとき、私は「自分自身のリーダーになる覚悟」と書いた。いつの間にかどこかに置き忘れてしまった自分の人生の舵をこの手に取り戻そう。そう思った。

Joy=喜びあふれる自然な状態へ

SIYは、結論はこうだ、というプログラムではなく、それぞれに得るものが違うのだろう。また、受講する時期によっても受け取るものが違いそうだ。実際、今回の受講者の中にも2度目という方がいらっしゃった。

受講を終えた1か月ちょっと後、「日本のマインドフルネスをアップデートし、これからの日本社会のOSとするインパクトを伝える」と掲げるマインドフルネスのカンファレンス「Wisdom2.0 Japan」が開催され、出席した。

SIYプログラムの創設者であり元Googleエンジニア、現社会活動家であるチャディ・メン・タン氏が登壇して、今、何を話すのかに興味があったからだ。

メン・タン氏は、これからの世の中に必要な要素として「Wisdom(叡智)」「Joy(喜び)」「Compassion(思いやり)」を挙げた。自分を含むアジア人は、とても静かに孤独に苦しみ、それを隠す傾向があるという懸念も語っていた。

画像6

「Joy(喜び)」という要素に私は少し驚きがあったが、メン・タン氏によると、「Joy(喜び)」とは雑念のない、人間のもともとの状態のことだという。

マインドフルネスとは「今、この瞬間に気づいていること」だけれど、それは「人がもともとそうだったように、喜びあふれる自然な状態」に気づくことなのかもしれないと考えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?