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【ショートショート】荒野を行く

ガタゴトと音を立てて、一台のトラックが荒野を走り抜けていく。
運転席では男性がハンドルを握っている。
助手席にも男が一人座っており、不貞腐れた様子で運転席とはそっぽを向いて窓の外を眺めている。
「なあ、そんなに怒るなって。俺が悪かったからさ」
運転席の男が宥めるように言うが、助手席の男は視線を窓の外へと向けたままだ。しかし運転席の男は諦めることなく、なあ、おい、としつこく何度も声をかけ続ける。しばらくしてついに根負けしたのか、助手席の男が運転席の方を見る。
「そりゃ怒りもするだろ、俺は関係なかったんだからな」
「悪かったよ。でもさ、一人だとどうしても不安だったんだよ」
「だからってお前、助手席に俺を乗せてトラックごと異世界転生するなよ」
「いやー、女神さまがまとめて許可してくれるなんて太っ腹で良かったよな」
「良くねえよ」
再び窓の外を向いた助手席の男の視線の先では、巨大なドラゴンが大空を優雅に飛び去っていく。
「いつまでガソリンが持つんだろうな」
「まあ、行けるとこまで行くしかないさ」
ガタゴトと音を立てて、一台のトラックが異世界の荒野を走り抜けていった。



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