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【ショートショート】解呪

『須藤、臭いんだよおまえ』
頭の中で声がする。中学校の時に私をいじめていた子の声だ。

その声に抗えず、何度も繰り返しスポンジで体を強く擦る。擦った部分は赤くなり、所々血が滲んでいるが、私の手は止まらない。登校時間ギリギリまで体を洗った私は慌てて登校する。

もう高校生だというのに私は未だあの子の言葉から逃れられていない。
毎日執拗に浴びせかけられた言葉は、もはや呪いと化していた。

自分の席で俯いていた私に声がかかる。隣の席の佐々木さんだった。
「ねえ、いつも腕が真っ赤だけど、肌弱いの?」
「いや、えっと」
もごもごと不明瞭な私の言葉を肯定と受け取ったのか、彼女は自分の鞄からハンドクリームを取り出した。
「肌が弱いなら、これ使うといいよ。愛用してるんだ」
そう言いながら差し出そうとした彼女は「あ、でも」と言って手を止める。
「須藤さん、いつもいい匂いするから、悪いかなぁ。これ薬用だから独特の匂いするし」
「えっ」
呪いの解ける音がした。



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