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【ショートショート】オバケレインコート

「オバケレインコートを発明したぞい」
嬉しそうにそう告げてきた博士に向けて助手ちゃんが不審そうな目を向ける。
「また珍妙なものを……ちなみにどんなものなんです?」
「このレインコートを羽織ればオバケのように透けるし空も飛べるのじゃ。具体的にはランダムヘキサゴンタイプのメタマテリアルで波長光の回折と反重力場の形成を同時に行っておる」
「何言ってるか分かりませんが凄いのは確かですね……」
複雑な表情を浮かべる助手ちゃん。
「早速売りまくるのじゃ! すでにネットに広告も出しとるしの」
はしゃぐ博士の後ろからひっそりとした声がかかる。
「あの〜、オバケレインコートがここで売ってると聞いたのですが」
突然現れた幸が薄そうな雰囲気を纏った女性に向け、嬉しそうに博士が接客を始める。
(……あれ? この人いつの間にここに入って来たの? 鍵は掛かってたはずだけど……)
ふと疑問に思う助手ちゃん。その間も博士のセールストークは続く。
「……という優れものなのですじゃ」
しかしお客は浮かない顔だ。
「つまりオバケのようになれるレインコートなのですね?」
勢いよく頷く博士。
「そうですか……オバケ専用かと思って来たのですが残念です」
そう言うとその女性はその場で溶けるようにスッ、と消え去った。あわわ、と腰を抜かす助手ちゃんの一方で、博士はがっかりした様子でぼやいた。
「何じゃ、自分で消えられるのではこれはいらんのう」
「そういう問題じゃないと思いますが」
助手ちゃんは呆れたようにつぶやくのだった。



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