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【ショートショート】蜘蛛の命乞い

なんの気なしに足元を見たら、蜘蛛がいた。
慌てて丸めた新聞紙で潰そうとすると、なんとそいつが命乞いしてきた。
「許してください。私はただの哀れな蜘蛛なのです」
「でも蜘蛛でしょ。気持ち悪いしなぁ」
「そんなこと言わないでください。ほら、昔話にもあるでしょう。蜘蛛を助けると良いことがありますよ。それに私は害虫も食べる良い蜘蛛なんですよ」
「ほう、そうなんだ」
僕が手を止めると、そいつはチャンスと思ったのかここぞとばかりにまくしたてる。
「ええ、ええ、私が言うのもなんですが、この家にはやたら虫が多いのです。だから私はせっせと虫を駆除しているのですよ。なんなら褒めてもらってもいいくらいです」
「ふーん、でもこの家の虫って動きが鈍かったり、動かなかったりしないかい?」
「おや、人間のくせにそんなことまでご存知なのですか」
「ところで僕の趣味は標本でね。ついこの間大事なコレクションを誰かに齧られたんだよね」

僕は再び新聞紙を振り上げる。
ぷちっ。



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