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【ショートショート】鳥獣戯画ノリ

「うーん、なんか違うなぁ」
クライアントである田中(カエル顔)が何度目かのリテイクを出してきた。
「もっとこう和風だけどコミカルさが欲しいよね」
「それならもう鳥獣戯画ノリはどうですか」
スマホ画面を見せると田中は我が意を得たりといった表情で頷いた。
「これだよこれ! やっと分かってくれたね」
いやあんた最初はハイソでエレガントな表現にしてくれ言うとったやん。心の中で思った言葉を必死で飲みこむ。
「さて仕事の話はこれまでで、飲むことにしよう」
「いや私は帰って作業を」
「そう言わずにさ、せっかく打ちあわせを雰囲気のある店にしたんだから君も分かってるよね?」
言いながら田中は私の手を握ってくる。
……あ、ダメもう無理。
田中の手を全力で握り返す。お望み通り鳥獣戯画にしてあげよう。下心剥き出しの表情の田中を、私は思い切り投げ飛ばしてやった。


鳥獣戯画で投げ飛ばされていたのはウサギだった事に気がついたのは、それから随分後になってからだった。



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