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【ショートショート】思い出の味

 「スイカが食べたいんだ」と彼は言った。聞きなれない言葉に私は首をかしげる。
「スイカ?」
「そう、スイカ。ウリ科の植物で果実の外観は緑色で深緑色の縦縞が入ってるんだけど……。知らないよね」
 彼は寂しそうな表情で言う。私は少しムキになって告げる。
「そりゃそうよ。だってそれ、地球の食べ物でしょ」
 突然変異的に発生した疫病にさらされた地球人類の中で、外星系からやってきた私が救えたのは彼一人だった。地球産の植物の遺伝子情報から必死になって私は彼の言う「スイカ」を再現する。それは上手く行ったと思う。見た目だけは。
 実を二つに割った瞬間、彼の表情に微かに残念そうな色が混じるのを私は見逃さなかった。たぶん、私はしくじったのだ。何がまずかったのだろう。鮮やかな緑色をした断面の中で僅かに赤みがかった部分だろうか。彼はこちらに向けて感謝の言葉を告げた。
「ありがとう、これは確かにスイカだよ。また食べられるとは思わなかった」
そう言って彼は優しく微笑んだのだった。


お題「ほんの一部スイカ」


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