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どこかに行ってしまった僕の苦痛へ

 拝啓、お元気ですか。あなたが姿を消してもうすぐ三日が経ちます。それほどの時間が経過してもなお、僕は依然として不思議で不思議で仕様がありません。この三年間——或いはそれよりもはるか昔から、私と共にあったはずのあなたが、どれだけ僕が振り払おうとしても尚、僕から離れようとしなかった筈のあなたが、こんなにもすんなりと姿を消すなんて。

 卒業式を——あの無意味な式典を終えて以来、僕は夜の眠りを、朝の訪れを恐れなくなりました。何もかもあなたの仕業だったのですね、とあなたを詰ることはおろか、僕を解放してくれてありがとう、とあなたに微笑みかけることもできずに、僕はまたひとりぼっちです。

 けれどあなたが去ったことに、別段の意味は感じませんでした。元よりあなたが僕のそばにいる未来を夢想していたわけでもありませんし、いつかあなたが僕の元を離れるという事実は、あなたと僕が出会ったその時から、僕やあなたの手が及ばない場所で——神や御仏の領域とでも言いましょうか——既に定められていたような、そんな気がします。

 果たしてあなたは、どこまで見てくれていたのでしょう。あの校長——たった一人の生徒代表の名前すら間違うようなあの人から表彰を受け取って瞬間、僕が感じた——何かが体から抜け落ちていく感覚は——きっと、あなたなりの僕への餞別だったのですね。

 ご存知ですか? 僕は結局、あれほど「一緒に写真を撮りたい」と言っていた教師と写真を撮ることはできなかったんですよ。ご存知ですか? 卒業式の前夜、必死で掻き集めたフィルターは、スマホの電池が切れてしまったばっかりに、役に立ちませんでした。ご存知ですか? 担任がクラスの生徒全員に手渡した感謝状に、僕が一種の白々しさを覚えていたことを。
 きっとあなたは、ご存知ないのでしょう。きっとどこかで、僕によく似た女の子の体の内部に入り込み——彼女の心を蝕んでいるのでしょう。あなたの「いっそ死んでしまえ」「死ねば、ここから逃げられるぞ」という囁きに、僕は何度苦しめられたことか。

 これを書いている僕の心臓は、静かに高鳴っています。そこから、あなたのメフィストフェレスのそれによく似た誘惑の言葉が聞こえてくることはおろか、あなたによって心の奥底が締め付けられる痛みが走ることはありません。
 さようなら。何処かへ行ってしまった僕の苦痛へ。あなたにかける言葉はもうありません。ただ僕が祈るのは——僕と同じような痛みを、僕と同じような苦しみを味わうことのなる女の子が、一人でも減りますように、という綺麗事じみたことばかりです。こんな僕を、あなたは笑うのかしら。それでも構いません。さようなら。もうあなたに巡り会うこともないでしょう。さようなら。さようなら。私の三年間。さようなら。

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