10. ある夜の出来事


2019年11月26日 8:05


紗希はオレの家に入り浸っている。


「なぁ、そろそろ帰れよ。」
「あのさぁ、セックスの後に言うセリフかなぁ?」
「俺の家だし。」
「たまには1人でやりたいの?」

思わず笑ってしまった。

1人でやるのも、まぁ嫌いじゃない。

「そんなんじゃないけどさ。いい加減家賃払ってもらわないとなぁ。」
「えー?身体で払ってるじゃん。」
「そう言うなら、もっとしてもらわないと。」

笑って冗談っぽく言ったつもりが。

「いいよ。してあげるから、パンツ脱いでよ。」

脱ぐと、紗希は口でやり始めた。

…上手いよなぁ。
どこで覚えたんだか。

丁寧に。舌を使って。
口に入れて。


そんな時に着信音が鳴る。


見ると、恭子さんから。

「電話だ。やめてくれ。」

残念そうに、強めに吸いながら口から出した。


「恭子さん。」

あの人が風呂に入っている時、こうやってたまに電話をかけてくれる。

「今日は声が聞けて嬉しいよ。」
「うん。」
「うん。」
2回目の相槌で、また紗希が咥えてきた。

やめろと手で合図するが、次第に激しくしてくる。


「恭子さん。また会いたい。」
「うん。そう。昼休み以外に。ははは。」

平静を装いながら。

でも実は耐えきれず。

恭子さんの声を聞きながら、紗希の口の中に出した。

『どうかした? 体調悪い?』
「いや、もう大丈夫。ごめんね。変な感じで。」
『…誰かいるの?』
「うぅん。誰もいない。」
『…宗介君。愛してるよ。』
不意の『愛してる』に、ドキドキしながら
「俺もです。」

即答して。


『また会える日できたら、連絡するから。』
「楽しみにしてます。」
『じゃあ、そろそろ…。』
「うん。ありがとう。」
『私も。宗介君の声が聞きたかったから。』
「恭子さん。嬉しいよ。愛してます。」
『うん。私も愛してる。おやすみ。』
「おやすみなさい。」


幸せな時間はすぐに終わり。

その可愛い声の余韻に浸る間もなく。そのまま。

「紗希、まだ支払いは終わってないよ。」

そんな事言いながら、本当はやりたくなっただけで。

恭子さんと。

でも恭子さんはいないから。


ねぇ…。紗希。


君はいい子なのにね。


君もわかってるはず。そういう関係だって。



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