汎用性のあるルーブリックと生徒の内省(採点用ルーブリックのあり方③)
前回、前々回の投稿から引き続き、定期考査でのライティング問題用の採点ルーブリックについて考えます。採点ルーブリックにおいて考慮したいのは以下の4点です。
採点効率
公平性(授業担当者間の差違への対応)
返却時の生徒自身の内省
汎用性
前回、前々回の投稿で1.採点効率と2.公平性について考えました。今回の投稿では残りの2つについて簡単に触れておこうと思います。
返却時の生徒自身の内省
答案を返却された際に、生徒自身が何が良かったのか、何が良くなかったのかを自分で考えて内省できるようなフィードバックにしたいものです。
ひとつのやり方は、analytic rubricを採用すること。評価項目ごとに詳しい記述があるので、自分の答案がどれに該当するか振り返ることができます。
しかし、analytic rubricは作成する手間もかかるし、採点時に参照する項目も多く複雑で、採点効率は犠牲になります。ということで、私は定期考査の評価では基本的にanalytic rubricは採用していません。
私は採点のしやすさを重視し、holistic rubricを採用しています。しかし、holistic rubricの場合、生徒の内省は期待しにくいと感じるかもしれません。
果たして、holistic rubricで生徒の内省は期待できるのでしょうか。そこに関しては、TOEFLのrubricがヒントを与えてくれます。
注目したいのは、高得点(5, 4)は "An essay at this level largely accomplishes all of the following." と記載されているのに対して、3以下の評価は "An essay at this level is marked by one or more of the following." と記載されているところです。
"one or more"とぼかしてあるところがポイントで、生徒は振り返りの際に、自分のエッセイがどの項目に当てはまるのかを考えさせられます。
もちろん、ルーブリックの記述から返却時に振り返りを行うことは、しっかりと指導が必要でしょう。一旦ルーブリック評価からの内省の仕方が身につけば、analytic rubricよりもむしろholistic rubricの方が、生徒の内省は深まると思います。
汎用性
私が定期考査の採点用ルーブリックにおいて重視する最後の一点は、汎用性です。
定期考査でライティングを出題するたびに採点用ルーブリックを作り変えるのは手間になります。出題への心理的ハードルを下げるためにも、ルーブリックは使いまわしできるものであるべきと考えます。
もちろん課題によって求められる事柄が異なります。毎回わざわざ別のルーブリックを作成せずに済むよう、私は採点ルーブリックに「課題の要求に応えている」という文言を採用しています。
このようなぼかした表現にしておくことで、課題が異なっても毎回同じルーブリックで対応することができます。例えば、理由とともに自分の主張を展開するエッセイであれば理由の論理性が「課題の要求」に含まれますし、compare & contrastのようなライティング課題であれば比較対照の表現を適切に使うことが「課題の要求」となります。
授業でのフィードバックが肝
ライティング問題のルーブリック評価を考えてみると、授業でのフィードバックが一番肝心であると改めて実感します。
大切にすべきところが授業できちんと示されていれば、与えられたスコアとルーブリックの記述から生徒自身の内省によりどこが足りなかったのか気付くことが期待できます。わざわざ採点用ルーブリックのために評価規準を名文化せずとも、「課題の要求」という一言で、「授業で強調したあのことだよ」と示すことができる、というのが理想です。
振り返り方を含めての「ライティング指導」
もっとも、これは理想論であって、もちろん私自身、実際にはフィードバックがうまく伝わらない、生徒が主体的に振り返りをしない、といったことに直面します。
自戒を込めてですが、ライティングの指導というのは、提出されたエッセイに対して添削やコメントを行うことだけではありません。評価やルーブリックの記述も含めて、与えられたフィードバックをどう解釈し、どう生かすのかを考えさせ、より良い書き手に導いていくことが本当のライティング指導だと思います。
定期考査の返却時には、common errorsの紹介やアドバイスだけでなく、ルーブリック評価の受け止め方と振り返り方も含めて指導したいものです。
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