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かぐや姫は地球に行きたい2ー2

 視界が晴れた頃、おじいさんとおばあさんの目の前にあったのは、フタ付きケースのようにパカリと開いた竹筒だった。そしてちょうど中程に、鮮やかな装束をまとった3寸ほどの女の子が、竹にはまって寝息を立てている。

「ば、ばあさん。ばあさんや! 見ろ!」
「え……本当に?」
「ばあさん、わしらの子じゃよ。子のいないわしらに、ついに授けられたんじゃよぉっ!」

 竹に駆け寄ったおじいさんは、小さな女の子をその竹ごと抱え上げて嬉しそうに目を細める。

「これまで、子が出てくるかもと、いくつもの拾い物をしたが、わしは最初からあそこが怪しいと思っていたんじゃ! おぉ、かわいらしいのぉ」

 竹から赤子という衝撃の最中にいたおばあさんだったが、おじいさんの発言でようやく我に返った。

「あ、そうでした。盗んできたんですよね、この竹。だったらこの子も――」
「見つけたわしらが先に決まっとるじゃろ。この赤子が最初に見たのがわしらなんじゃから、わしらが親じゃ」

 おばあさんが「竹の所有者の元に返すべきでしょ」と、言い終わらないうちに、おじいさんの暴論が割って入る。

「鳥じゃないんだから」

 そう口では反論しつつも、視界に入る小さな白い肌に心が奪われないわけがないおばあさん。「ダメだ、見たら本当に欲しくなる」と、心の内で必死に抗う。

「おお、目が開いた! 起きたか! まことに愛らしいの! ほれ、見てみ。こんな玉のような赤子を見て、元あったところに返せとぬかすか?」

 おばあさんの葛藤を知ってか知らずか、おじいさんが赤子入りの竹を向けてくるので、おばあさんは全力で目を逸らす。
 見なくても分かる。絶対にかわいい。というかチラッと視界に入っただけで、かわいかった。

「見てみぃ、ばあさん。この子は流石に女の子や。となり村の桃太郎は身一つで生まれてきたっていうのに、この子は服も着とるし、ほら、なんか節の間に小槌みたいなんとか入っとる」

 おばあさんの葛藤を知ってか知らずか、そう畳みかけて興味をひいてくるおじいさん。もう抗えるわけがない。
 1度、その小槌とやらをじっくり見よう。ただし、赤子の目を見たらダメだ。目さえ見なければ、なんとか抑えが効くだろう……。
 そのおばあさんの想定は、甘かったとしか言いようがない。おじいさんから竹ごと赤ちゃんを奪い取る。

「なんだね、この子は!? かわいすぎんか!?」

 こうして竹から生まれた小さな女の子は、おじいさんとおばあさんの元で暮らすことになった。

「おじいさん、この子、名前はどうします!?」
「決まってるじゃないか。竹から生まれた竹子じゃよ。あ、竹ノ子でもいいな」
「竹子、さあ、お家に行きましょうねぇ。おじいさん、洗濯物を忘れないでくださいね」

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