僕が見えなかった景色の面影

 中学2年生のあるクラスの3学期の様子に密着取材したドキュメンタリー映画『14歳の栞』を観てきた。

 あるクラスの中では、毎日表に裏に色々なことが起こっている。35人のクラスメイト1人1人にスポットライトを当てながら、その日常を切り取って写していく。

“あの頃、一度も話さなかったあの人は、何を考えていたんだろう。”

 これが映画のキャッチフレーズなんだけど、まさしくその問いが浮かんでくる。
クラスの盛り上げ役や、机に突っ伏して息を潜めて寝ていた子は一体なにを思っていたのだろう?「最高!」の想いと「最悪!」の叫びがごちゃ混ぜにあって、どちらもひとしく描いていく。

 ああ、生きてんなぁ。人間ってみんな生きてるんだなぁ。
 それが率直な感想。

 仲の良かった親友が、笑顔の下でなにを感じていたかを本当に自分は知っていただろうか?
 思い出に残っているクラスメイトは、結局自分の頭の中で作り出された虚像に過ぎない。
 クラスの中で見える顔なんてほんの一部に過ぎない。気に入らないと思っていたあいつにも数えきれない魅力や長所があるのだ。そうすると愛おしくなる。

 楽しい、嬉しい、悲しい、怒り、狂喜、後悔。
 爆笑、嘲笑、照れ笑い、苦笑、愛想笑い。
 様々な感情と表情が渦巻く。

 1年で人生が花開く子もいれば、芽が摘まれて散っていく子もいる。漫然と過ごしている子もいれば、ずっと葛藤を抱えている子もいる。それは今後変化するかもしれないし、一生同じものを抱えていくのかもしれない。

 大人子供関係なく、言葉にすることはほんの僅かで、それも本音とは違うことも口にする。だから、現実でも映画内でも語られる言葉が全てではないと思う。

 起きた出来事に対して、どう受け止めて、どんなアクションを起こすか。成功もすれば失敗もする。
 14歳の貴重な時間に大人が入り込んで、自分達の振る舞いを撮ることで、発生したノイズも大いにあるだろう。それもまた一つの体験として人生に仕舞い込まれていくのだろう。

 みんな生きてるわ。そう実感させて、優しくしようと思える作品だった。

 全体的には落ち着いたトーンにもかかわらず、すごいエネルギッシュでぎっしり詰まっていた。
 もう圧倒的な傑作。あと何度かは観に行きたい。


:追記:
ネタバレではないけど、少しだけ内容に触れるので、観ていない人は以下閲覧注意。









 そういえば、作中だれも泣かなかった。
 アニメもドラマもすぐに登場人物が泣く。フィクションだからこそ劇的な場面が求められ、そこに感情の発露をしようとする。

 でも、小さい子供はさておき、現実の僕達はそんなに人前で泣かないのだ。強がって、恥ずかしがって、悔しがって、泣かない。お涙頂戴にならず、淡々と言葉を紡ぐ姿に圧倒的なリアルがあったと終わってしばらく経ってから思った。

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