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いまを卒業する

 この前喋っていた人が「自分がゆっくり崩壊していく」と言っていて、その相手に対して「良い状態ですね」と僕は口にした。嫌味も、てらいもなくそう言えた。

 自分でもそれが意外で、嬉しかった。

 これまで築き上げた己が崩れていくのは、根本から見直し、変えようとする兆候なのだ。不安や怯えが起こるけれど、新たな環境に適応するために必要な段階だ。それは以前から僕がずっと考えていたことだけれど、何気無い場面でその言葉が出るということは、自分の身になっている証拠だった。

 いまあるものを守ろうとする。でも、どんなに大切にしても変わっていってしまう。時間とともに劣化することもあれば、時価と共に値が上がったりする。
 良くも悪くも、あるいは良し悪しなど超越して、いまあるものは留まってはいられない。だから、少しでも長く現在の状態を維持させるのではなく、変化に適応していくのが自然な形だと思う。

 歳を重ねれば老いる。でも、老いが人間としての渋みと深みを出してくれる。

 崩壊するとか、失うという言葉の響きが嫌ならば、「いまを卒業する」でもいいかもしれない。ほら、卒業したら次がまた始まるでしょう?

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