『世界は贈与でできている』は疑問に言葉を与えてくれる
最近読んだ本の中でも1番のヒットだった。
タイトルだけを見ると、「贈与は凄い!」と賞賛する内容を想像するかもしれないけれど、中身は「贈与とはなんなのか?」を考察する一冊だ。
贈与をありがたがらなければならないか?
与えることは、相手のためになるだろうか?
それは以前から僕自身が抱えてきた疑問だった。
お金や食事、言葉や労力など僕達は様々な形で相手に差し出す。それに対して、対価を得れば交換になる。交換によって僕達の生活は成り立っていて、それが資本主義経済だと言えるだろう。
しかし、世の中は交換だけではない。対価なく他者に与えることがある。
基本的には相手を思いやり与えることになるのだが、その「善意」は果たして相手のためになっているか。
誰もが子供のためを思いながら教育を施して子どもをゆがめ、災害時に栄養を補充して欲しくて生鮮食品を送り、電気の止まった被災地で腐らせてしまう。
欲しくもないものを与えられても、ありがたく受け取らなければいけないのだろうか。
他者の善意はときとして呪いとなる。(P74)
なんでもかんでも与えれば良いわけではない。
「ただ施しを与える」と「贈与」は分けて考えなければいけない。
両者を明確に分かつのは一体なんなのか?
それに対して、本書では「受け取り手が認識することによって贈与は出現する」と言う。
子どもは住むところがあり、食べるものに困らず、買いたいものが買える状況を当たり前にあると思い、それが与えられているとは気づかない。成長して、自分が働いてお金を稼ぐようになった時、親からの与えられていたことに気づく。
子どもが気づかなければ、あるいは不慮の事故などで若くして亡くなってしまえば、その贈与は成立しない。
贈与は、差出人にとっては受け渡しが未来時制であり、受取人にとっては受け取りが過去時制になる。
贈与は、未来にあると同時に過去にある。(P112)
与えるだけでは、贈与になりえない。
与える者の独断で、贈与はできない。
それは、僕の抱える疑問に対して、しっくりくる捉え方だった。
アンサングヒーローは確かにいた。
個人的に本書で1番刺さったのは、「アンサングヒーロー」という概念だった。
その功績が顕彰されない陰の功労者。歌われざる英雄(unsung hero)。
アンサングヒーロー。
それはつまり、評価されることも褒められることもなく、人知れず社会の災厄を取り除く人ということです。
「アンサングヒーロー」という言葉を僕はずっと探していた。自分がなんとなく思い描いていたその概念にようやく言葉が収まった。その感覚だ。
縁の下の力持ちと周囲から『認識』されている人は、アンサングヒーローではない。
たとえば、風の強い日にAが自転車を屋外の駐輪場に停めておく。風で自転車が横倒しになるだろう。そこに通りかかった通行人Bがそれを見つけて直したとする。Aが戻ってきた時には、同じ姿で自転車はそこにある。なにも違和感なく、また自転車に乗っていくだろう。
この通行人Bさん=アンサングヒーローは、見返りをなにも求めていない。存在すら知られない。
しかし、存在しなかったわけではない。
よく観察して思考すれば、サドルにフレームに少し土がついているなど、痕跡は残っている。
アンサングヒーローは、確かに僕達の現実を守っている。それは、小さい集団や組織、そして社会というレベルまでいるだろう。
「なんか上手くいっている」「なにも問題が起きない」それはだれかがそこで働き、作用しているからなのだ。しかし、基本的にそれはわかりやすくは訪れない。失われてしまった時に初めてわかる。なぜか問題が頻発するようになる。それはアンサングヒーローがいなくなってしまったからだ。
僕は、アンサングヒーローを見つけたいのだ。ヒーローは名乗るのではなく、贈与と同じくそれと認識する人によって、成立するから。
なりたいのではない。なって認められたいと見返りを求めた瞬間に、アンサングヒーローはハリボテになってしまう。
ヒーローはちゃんといたのだって、それを見つける人がいなくてはならない。そもそも、本人すらも気づいていない場合があるのだから。見つけてちゃんと「ありがとう」って言いたい。
危機に訪れるヒーローはカッコいい。
……でも、なんでいつも手遅れになってからやってくるのだろう?
なんでことが終わったら、去ってしまうのだろう?
危機を未然に防ぎ続けたヒーローこそ、最高だと思う。
いつも間に合っていて、そしていつだって僕達のそばにいる。
贈与を受け取る感性
贈与の話に関しては、「?」と思うような部分もあり、まだ理解できていない部分も多い。それでもこの本で語られていることは、感動がある。
贈与は受け取る人によって成り立つ。不当に受け取ってしまっている。それに気づいたときに送らなければいけない。だから、贈与を成立させるために受け取る感性を磨いていく必要があるだろう。