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10年近い未練を供養する.


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19歳で働いた会社の上司に恋をした。
今思えば、あれは前の男を忘れるために新しい恋をしたかったんだと思う。
この男を好きになろうと自分を洗脳した。
仕事も出来るし私にも優しいし、頼りになる。
管理職なのでお金もある。独身。
いい所をたくさん探した。
すぐにその上司を好きになり私の洗脳は完了した。
でも。その上司は私を好きにはならなかった。

彼とは20近く歳が離れていた。
私のしたアピールは彼にとっては子供の背伸びにしか見えなかったのであろう。
そもそも未成年に手を出さないという真面目なところも好きになったのだ。
せめて成人したらなにかが変わると願い、19歳の私ははやく大人になりたかった。


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数年後、私は退社した。
片想いに身を焦がしすぎ、メンタルの不調がとどまることを知らなかったからだ。
そう、片想い。
私の数年のアプローチは恋人になるという実を結ばなかった。

ただ、全て報われなかったわけではない。
告白をした。
好きな人がいると断られた。
じゃあ、せめて――と。
私は身体を差し出した。
身体で繋がり彼のナニカになりたかった。
特別じゃなくていいから、とにかくナニカになりたかった。
結果、片想いのセフレ関係という私にとっては地獄の関係に収まった。

この関係が苦しくなったのともう1つ。
彼の想い人は同じオフィスにいた私より少し年上の先輩社員だ。
私は彼が好きなのに、彼は彼女を愛してる。
彼は私を抱いているのに、抱いてない彼女を愛してる。
その自業自得の行為の結果と嫉妬で心がガリガリやられた。
その女の顔も見たくなくなった。
業務内容の多忙さと、自分のせいで泥沼になった片想いと、彼の想い人。
その3つからくる軽い鬱状態と診断。
ほぼ自業自得のメンタル崩壊による自己都合退社となった。

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退社して数ヶ月後。
彼から連絡があった。
振られた、とただそれだけ。
私は彼が待つホテルへ走った。
やっと付き合える。
やっと私だけを見てくれる。

結果を言うと付き合えなかった。
私だけを見てくれなかった。
身体は重ねた。
結局私たちはセフレでしかないのだろうか。
なんでこんな人好きなんだろう。
あの日かけた洗脳に心を蝕まれた。



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それから数年間ズルズルと関係が続いた。
週末カフェに行ったり食事をする。
お互いの仕事が終わって通話をする。
ホテルでお泊まり会をする。
お互いの誕生日とクリスマスにはプレゼントを渡す。
喧嘩をする。
2人だけで旅行に行く。
お互いの身体を求めあった。

――まるで恋人のような日々を過ごしていた。
しかし、私たちの関係には名前がなかった。
一度「私たちってセフレだよね」と自嘲気味に言うと「そう言う風に思ってない」と答えた。
もう、どうでもいいやと考えるのをやめた。

もう少しだけこのままでいたい、と弱い心は小さく願った。


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20代後半になった。
彼も40を過ぎ、未だに独身だ。
私は結婚願望は無かったが、彼と結婚して彼を私に縛りつけたかった。

そしてあの日。
結婚はする気がないと言われた。

私の数年間が全て否定された気がして泣いた。
彼に依存だけしていた罰が当たったのかもしれない。
彼との何度目かの失恋でとりあえず自分の人生をどうにかしないと、とようやく目が覚めた。

目は覚めたが、心はずっと彼を想った。
もうこれは恋でも愛でもなく、ただの執着だと5年以上目を逸らしていたそれと向き合った。

きっとここまでグズグズに熟しきるまでに全てを焦がした恋を二度とすることはないのだろう。
そう思い、私から彼を解放した。


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それから、新しい恋人ができた。
彼は私のことを大事にしてくれて、愛してくれるとても素敵な人だ。
遠距離恋愛を経て、同棲を始めた。
地元に居ると"あの人"の痕跡を探してしまう為、私が遠く離れた彼の元へやってきた。
穏やかな毎日。
たまにする喧嘩も、微笑ましい。
きっとこのまま結婚するのだろう。
あの恋愛より激しい恋ではないが、私は満たされていた。

そんなとき、私はあの人のTwitterをたまたま見てしまった。
片想い時代にネトストして特定したアカウントを鍵垢でフォローし続けており、その鍵垢を削除しようとログインしたときに。

<――この歳になりましたが、パートナーが出来ました。毎日楽しいです。>

たった短い文章を読んで、目の前が暗くなった。
ツイート数が少ない為すぐ遡って全部見た。
投稿日時は私と会わなくなってすぐ。
その後のツイート内容から察するに、おそらく以前好きだったあの女と結ばれたようだ。


気付いたら泣いていた。
私のことを幸せにしてくれなかった癖に、あの女のことはすぐ幸せにするんだね。
私と恋人ごっこしてたときも、私のことを見てなかったんだろうな。

そして一番悲しかったのは、今私はとても幸せなのに、昔の男のことで心がザワザワしている自分の未練がましいところ。

でも10年近く熟成させた執着は簡単に成仏されずに未練として残るのだろうな。


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あなたが私に死ぬまで鮮烈に焼き付いて離れないように、
あの数年間があなたにとっても忘れられない傷になってますように。

今までずっと縛りつけててごめんなさい。
私のメンタルで振り回してごめんなさい。
ずっとずっと大好きでした。
多分、あなたより誰かを好きになる恋はもうないでしょう。

私も幸せになります。
あなたも幸せになってください。
大好き、さようなら。

たった今、LINEのトーク履歴も一緒に撮った写真も全部消した。

この未練がいつか成仏されますように。
約10年間の片想いの終着から、上手く歩いて行けますように。

この未練を供養する。

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