ビールとサウナ（サウナ編）

（本記事は「ビールとサウナ（ビール編）」の続編に当たります。）

ミーハーな私は当然サウナにも目を付けていた。
サウナ。銭湯に行って友人に誘われれば入ることもあるが、自ら進んで入った覚えは特にない。何となく息苦しいイメージがあるし、水風呂も冷たくて入れたものじゃない。こんな様子なので、わざわざそれ専用の施設に行くほどのモチベーションが沸く筈もなかった。
しかしこうも流行っていると心惹かれるというものだ。否が応でも汗をかくのでビール三原則を簡単に満たせるという点も好ましい。
思い立ったが吉日、”サ活”して”整って”みようではないか。

はい、という訳でやってきました、スパリゾートプレジデント！
記念すべき私の初サ活は御徒町にて催される次第となった。自宅からのアクセスが良く、値段も安価で取っつきやすかったのだ。
御徒町駅から5分とかからず到着した本施設は、何とパチンコ屋と同じビルに入っていた。おいおい大丈夫か？治安に関する少々の不安が胸をよぎる。CRヱヴァンゲリヲンで負けたおっさんにカツアゲとかされないだろうか。サウナの蒸気だって怪しいものだ。パチンコ屋から漏れ出した副流煙じゃないだろうな。そんな裸夫の喫煙所みたいな場所は死んでも御免である。
警戒の姿勢を崩さず入店する。

受付で料金を支払い、バスタオルを受け取ったらいよいよ浴場とのご対面だ。
サウナの前に、まずは体を洗って湯舟に浸かる。こうすることでサウナの効能を高めることが出来るとネットで見た。偶にシャワーを浴びずに湯舟へ直行する不届き者がいるが、自分の体が清潔とでも思っているのだろうか。全く意味の分からない輩である。「体洗ってくださいよ。」と一言注意できればいいのだが、そんなことをして逆恨みの根性焼きでもされたらたまったものじゃない。ここがパチンコ屋の真上にあることを忘れてはならない。
10分程湯舟に浸かり、いよいよサウナへGoだ。

イメージ通りのサウナである。暑くて息苦しいが、不快感はない。
長居してのぼせてはいけないので、初回は5分程で出ようと決めていた。サウナ内にはテレビがあるのでそれを見ていればあっという間の筈だ。刑事物のドラマが流れており、私が見始めたところで和菓子職人が殴り殺された。しまった。あれだけ治安の悪さに注意していたのに、警戒を怠った。まさか放送されている番組まで治安不良とは思わなんだ。何度も言うがここの真下はパチンコ屋、気を引き締めなければ。

サウナを出たが苦手な水風呂に浸かる気はさらさらない。しかし”整う”ための手順である水風呂を無視するのもどうかという気がする。
ということで冷水シャワーを浴びてお茶を濁すことにした。
シャワーから冷水が出ていることを確認し、頭から一気に被る。
「っっ───────！！！」
声にならない悲鳴が響き渡る。全身の毛穴が閉じ、体が引き締まっていくのを感じる。
冷たすぎてあやうく死ぬところだ。
加熱された後に冷水をぶっかけられるなんて、そんなことされるのはうどんくらいの物だと思っていた。自分がされて嫌なことをうどんに強いていただなんて反省の極みである。これからは優しくしてやろう。
命の危険を感じたので足だけ湯舟に浸かって休憩することにした。
「うどんに優しくするなんて誓ったけど家で食べてるのは冷凍うどんだから、水の冷たさ程度はどうってことないだろうな。」こんなことを考えながら5分程ボーッとしていた。

サウナ→冷水シャワー→休憩を4セット繰り返したところで体に異変が起きた。心臓の鼓動が大きくなり、血液が全身を猛スピードで流れていくのを感じる。体がフワフワして何となくいい気分だ。もしかすると、私は今”整って”いるのか…？
正直整うとかよくわからないし早くビールを飲みたいので浴場を出る。
この施設にはレストランも存在するのだ。しかも日本一美味いビールであるサッポロラガーが置いてあることもリサーチ済。経営者のセンスの良さが伺えるビールチョイスである。

レストランは人が少なく静かで、1人で飲むには絶好の環境である。気の良さそうなおばあさんが店員なのもポイントが高い。
この時点でビール三原則の要件は完全に満たしている。あとは本能のままに飲むだけだ。
運ばれてきたビールを一気に流し込む。
くーーーーっ、たまらん。先程よりも今の方がよほど整っていると感じる。宇宙規模の多幸感に包まれていく。私、こんなに幸せでいいのかしら。

ビールを飲み干し世界最強の気分になったところで休憩スペースへと向かう。
やわらかい椅子にグタっと座り、各椅子に取り付けられたテレビを見てくつろぐ。椅子は無限にリクライニングするので座っているというより寝そべっている形に近い。
サウナで体ポカポカ、ビールで頭パヤパヤ。こんな状態で寝そべってしまったのだから眠るなと言う方が無理な話だ。これで眠らないなんてとんだ罰当たりである。15分程の仮眠を終え、施設を後にする。
外に出ると夕暮れ時である。12月の冷たい空気が火照った肌に心地良い。
うん、また来よう。

こうして初サ活は整ったんだかそうでないんだかわからないままに幕を閉じた。
後日熟練サウナーの友人に尋ねたところ、「”整った”という確信がないのなら、それは整っていないのサ。」と遥か高みからの御言葉を頂戴した。
サウナの魅力は堪能できたが、ビールを味わうための前振りになっているような気がしなくもない。
これでは”サ活”というよりは”ビ活”である。