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痛かったら手をあげてください

歯医者に行くと先生にこう言われる。

「痛かったら左手をあげてくださいね」

とりあえず、「はい」とだけ返事し、
最初から左手をあげようと思っていない。

痛みが出ようと必死でこらえ、両手は終始、
握りしめている。

手をあげたところで、何の解決にもならないと
思っているのかもしれない。

今直面している問題を解決するには、
痛みをこらえるしか方法はないと決めつけているのかも
しれない。

手をあげたところで、先生のその後の対応は変わらないと
決めつけているのかもしれない。

越えなければならない壁を越えないまま、
退散するわけにはいけない。

虫歯を治療するためにやってきているのに、
手をあげて降参を示し、あきらめて帰るわけには
いかない。

そう無意識に思っているのかもしれない。

または、

「痛かったら手をあげてくださいね」

は、社交辞令的なことなのかもしれない。

心では全く思っていない、形式的なお愛想かもしれない。

そうなると、先生の言葉を真に受けて、
左手をあげてしまっては格好が悪い。

「いやいや、ノリで言っただけなんですよ」

「ただのリップサービスですよ」

と返答され、恥をかくかもしれない。

「今度、ごはんにでも行きましょう」

といった感覚で先生は言っているのかもしれない。

先生の言葉を真に受けて、手をあげたばかりに、
素直でまじめなタイプだと思われてしまう。

そうなってはこちらとしても納得がいかない。

こういった理由で歯医者さんで
いまだかつて、手をあげたことがない。


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