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出会い系サイトで出会った男性と映画館へ行き内容が全く入ってこなかった日

15年ほど前、出会い系サイトに夢中になった時期が
あった。

実際にお会いした男性は5人ほど。

そのうちの3人は、会って早々「ホテルへ」という
流れだったので、会って早々さようならした。

4人目の方は居酒屋で飲んでお話して、終わり。

いずれも2回目以降、お会いした方はいなかった。

5人目の男性のことを思いだす。

メッセージのやりとりのなか、彼の提案で
映画館へ行くことになった。

初対面で映画館に行くのもどうかと思ったが、
だからといって大した提案もできそうになかったので、
彼の提案を黙って受け入れた。

観る作品は『コクリコ坂から』に決まった。

初めて会う瞬間はドキドキするものだ。

『どんな人なんだろう』

『結局は「ホテルに・・・」と
言われるのだろうか・・・』

そして当日。

それらしき男性がやってくる。

「松本さんですか?」

「はい、そうです、はじめまして・・・」

とてもさわやかな印象だった。

性欲がギンギンな印象はなく、少し安堵した。

そして予定通り、映画館へ向かう。

相手のことを知らないまま、観る映画。

『どんな人なんだろう・・・』

映画が始まった。

話したことがない男性が隣にいるというだけで
落ち着かない。

『コクリコ坂から』の内容が全く入ってこない。

ただスクリーンに顔をむけたままでいる。

彼はというと、チラチラこちらを見ているようだった。

『こっちみてる・・・』

私は正面を向いたまま、絶対に首を動かさない。

内心萎えていた。

なんだか嫌な予感がする。

なんだこの胸騒ぎは。

相変わらず内容が入ってこず、
スクリーンに顔を向けたままでいる。

すると、彼は私の方に体を近寄せてきた。

『うわぁ・・・』

私はさらに萎えていた。

次の瞬間、私は手を握られた。

ドキドキしていた。

恋するドキドキではない。

変な緊張からくるドキドキだった。

その手を、本当は払いのけたかった。

でも、そんなことをしたら彼に申し訳ない。

性欲ギンギン丸出しの3人に比べたら、
なんてことはない。

私はそのまま我慢した。

得意の忍耐力を発揮した。

早く映画が終わって欲しかった。

相変わらず内容が入ってこない。

もう映画どころではない。

ただ、一人我慢大会をしている状態だった。

ようやく映画が終わる。

そのあとのことは覚えていない。

手を握られたことで頭がいっぱいだった。

私は彼との別れ際、どんな顔をしていただろうか。

嫌な顔をしていなかっただろうか。

言うまでもなく、『また彼に会いたい』とは
思わなかった。

彼とメッセージもしなくなり、
私はいつもどおりの干物女生活を送っていた。

ある日、街を歩いていると、あの彼とすれ違った。

隣には女の子がいる。

彼は笑顔だった。

一瞬見ただけだったが、なんだか楽しそうだった。

私は安心していた。

出会い系サイトで出会った女の子だろうか。

私と違って、映画を観ていても、
見つめ合う瞬間が何度もあったのかもしれない。

私のように、手を握っても、びくともしない地蔵女
ではなく、少し照れながら、彼に甘い表情を向ける子
だったのかもしれない。

私は彼の恋が成就してほしいと思っていた。

出会いサイトはもう、こりごりだとも思った。


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