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ピアノが飛んだ日

実家の私の部屋は空っぽだ。

2年前、断捨離ならぬ全捨離に本気を出した。

一度スイッチが入ってしまえばこっちのもの。

買って一度も着なかった革ジャンも、

嵐の番組が録画されている山積みになったVHSも、

何十枚とある8センチのCDたちも、

学生時代の卒業アルバムも、

捨てて捨てて捨てまくった。

そして最後に残ったのは私の心のよりどころだったピアノ。

ずっと使っていなかったのでどうにかしたいと思っていた。

2階にある私の部屋からどうやって運び出すか。

業者でも階段を使って1階まで運びだすのは到底不可能。

その問題と向き合わずにずっと放置していた。

しかし、全捨離に本気を出したからには真剣に向き合わなければならない。

ようやく手放す決心がついた去年の冬。

幼き頃、お世話になったピアノの先生に母が相談してくれた。

私の部屋の窓からクレーンを使い、外に出すという方法。

先生はその方法でピアノを外に出したそうだ。

クレーンを使って本当に出せるのか。

そもそも窓からピアノが出るのか。

疑問点はいくつかあったが、それしか有効な方法はなさそうだった。

そして当日。

母がその様子を動画に撮影し、送ってくれた。

私の部屋の窓からゆっくりとピアノが顔を出している。

クレーンに引っ張られ、私のピアノは外界に出た。

翼を広げ、空高く羽ばたいている。

その時の様子がこれだ。


ピアノが飛んだ


なんだか誇らしい気持ちだった。

感慨深いものがあった。

毎日ピアノを練習していた日々を思い出す。

幼き頃、ピアノとともに過ごした日々は友達と過ごした時間よりも長いだろう。

私の心の友であるピアノ。

音楽の楽しさを最初に教えてくれたのもピアノ。

そんなピアノと距離を置かなければならなかった時期。

中学でバスケ部に入ってしまったばっかりに、
ピアノのレッスンに通うことができなくなった。

毎日バスケットに明け暮れ、ピアノにふれる機会はぱったりとなくなってしまったのだ。

でもやっぱり私はピアノが好きだった。

大人になってもピアノを触っていた。

音がでなくなった鍵盤があると気づいたとき、切なかったな。

ずっとほうっておいて申し訳なかったな。

あの頃、ピアノで奏でた曲たちは心のアルバムにしまって。

私のピアノが旅立った日の記録はここに残して。

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