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ミスドで並んでいて仏の心でいられなくなった日

普段、温厚な人格のふりをしている私だが、
生理前となれば話が変わる。

数か月前のミスドでの出来事。

仕事終わりに腹ごしらえをしようと立ち寄った。
時刻は21時をまわっている。
陳列されているドーナツも少なく、数種類しかない。
幅1mもないほどである。

私の前には先頭に女の子2人、
その次にカップルが並んでいた。

その時点で少し苛立ちを感じている。
時間がかかりそうな予感がしたからだ。

私は用事があり、急いでいた。
さっさとお目当てのドーナツを取って、
お会計するはずだった。

だが、先頭の女の子2人は楽しそうにおしゃべりしながらドーナツを選んでいる。

普段の私なら、もちろんその程度で苛立ちを感じることはない。
あたかい眼差しで見守ることができる。
だが、タイミングがタイミングだ。
女性が最も狂暴化する時期、生理前なのだ。

しかし、それを理由に苛立たしさをあらわにするのは
大人げない。
もう何年も経験していることだ。
本来は寛容な心の持ち主のはずだ。
クールにふるまえるはずだ。
そう言い聞かせる。

すると、女の子2人は最後尾の私の後ろに移動してきた。
ドーナツ選びに時間がかかりすぎだと
申し訳なく思ったのだろう。

『うんうん、そうだよね、そうするべきだよね。

たった3列しかないドーナツの量なのに、

そんなに時間を使うなんて気が引けるよね。』

私の苛立ちは少し緩和されていた。
むしろ女の子2人に好感をもっていた。
後方にいる人に対する配慮からとった行動だろう。


お次はカップルだ。
そのカップルがドーナツを取らない限り、
私はお目当てのドーナツが取れない。

『もうどれにするか決めていますよね?

女の子2人が選んでいる間に、

だいたい目星つけていらっしゃいますよね?』

私の期待とは裏腹に、カップルはドーナツをどれにするか決めていない様子だった。

苛立ちがおさまっていたのも、再燃していた。

『落ち着け、気長に待とうじゃないか。

普段の私ならそれくらい当たり前に

待てるはずじゃないか。

もうすぐに、ドーナツを選んで

会計にすすんでくれるだろう。』

しかし、期待すればするほど、苛立ちは増すだけだった。
なかなか、決める様子はない。

『たった数種類しかないドーナツなのに・・・。

幅1mもない陳列なのに・・・。

後ろで待っている人間のことを考えられないのか?』

苛立ちがピークに達していた。
冷静さも欠如している。

私はとっくにお目当てのドーナツは決めている。
ダブルチョコレートだ。
あとは、さっと取って、会計に進むだけ。

『こういう時って、順番抜かしていいんだっけ?

店員に聞いてみるか?』

ふと考える。

一方でカップルはまだドーナツをどれにするか
悩んでいる。

『このくらいのことで、いちいち店員に聞くのも

どうかしているな。

落ち着け、クールにふるまおうじゃないか。

待てばいいんだ、待てば。』

だが、苛立ちは限界を超えてしまう。

『こちとら、もうお目当てのドーナツは

決めてるんじゃ!

さっさと胃袋にぶち込んで別の用事に行きたいんじゃ!』

もう、自分のことしか考えられなくなっていた。
感情のコントロールができなくなっていた。
普段はクールで寛容な心の持ち主なのに。
私はただの、せっかちなおばさんと化していた。

気づくと、私は前にいたカップルを抜かし、
先頭に移動していた。

その瞬間、カップルの女性の首がものすごい勢いで
回ったのが分かった。

私の方を見ている。

絶対に目を合わすまい。

それでも女性はまだ、こちらを見ている様子だった。
私の視線の先にあるのは、ダブルチョコレート。

まだこちらを見ている女性。

『なに順番ぬかしてんだよ!』

そういう目で見ているに違いなかった。

そうこうしているうちに私はもうお会計に進んでいる。
ドーナツを取って、5秒もかかっていないはずだ。

私は悶々としたまま、ミスドをあとにする。


翌日、わだかまりが解消されず、
職場の人に相談してみた。

「一言、声かければよかったんじゃない?」

確かにそうだ・・。
あの時、冷静になれていたら、できたはずだ。
いつものクールで寛容な心の持ち主である私なら、
できていたはずだ。

こんなに当たり前のことが
できていなかったなんて・・・。


「あの、すみません。

私、どのドーナツにするかもう決めているので、

先進んでもいいですか?」

クールな私なら言えるはずだ。

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