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長繩8の字跳びになかなか入れなかった君へ

小学生の頃、昼休みや体育の時間で長縄8の字跳びをしていた頃を思い出す。

長縄8の字跳びは誰もが通る道だ。
日本中の学校で長縄8の字跳びの物語が無限に存在しているに違いない。
例えばこんな風に。

長縄にクラスメイトがリズムよく吸いこまれていく。
「いち! に! さん! し! ・・・」
みんなで声を出して数える。

誰も引っかかることなく回数を重ねていく。
みんなの心が一つになる輝かしい時間だ。

「にじゅさん! にじゅ・・・」
数をかぞえる声が止まった。
ぶんぶんと回っている縄の音だけが響いている。
回っている縄の前で、入るタイミングを失ってしまったみね子ちゃん。

「今! 今!」と縄に入るタイミングを教えてあげる友達の声が飛び交う。
みね子ちゃんの全身はこわばってしまい、ますます縄に入ることができない。
休み時間の終わりのチャイムが鳴る。

「あ~」と残念な様子を露骨に出しているたけしくん。

「長縄入れないくせに大きい水筒持ってくんなよなー」

と心無い声も聞こえる。

それからというもの、みね子ちゃんは長縄に強い苦手意識をもってしまう。
自分のせいで、連続100回が永遠に達成されることはない。
そう思ってしまう。

みね子ちゃんはみんなが昼休みに長縄をしていても参加しなくなり、体育の授業も「具合が悪い」とずる休みをしてしまう。

そういう状況が決してあってはならない。


あの時、

「なんでそんなこともできないの・・・」という目で見てしまってごめんね。

「こんな状況じゃ、長縄大会で優勝できないよねー」なんて陰口たたいてしまってごめんね。

「長縄入れないくせに、大きい水筒持ってきやがって・・・」という目で見てしまってごめんね。

そう後悔している人もいるだろう。

あの時、なんて声をかけてあげればよかったんだろうか。
大人になって、ふと考える。



「大丈夫だよ、長縄飛べないくらい、なんてことないよ」

学級委員のまさみちゃんがそう言ったところで、みね子ちゃんは救われただろうか。

「そうだよそうだよ」

まさみちゃんのことを慕っているサキちゃんが、肩をたたいてなぐさめてあげたところで、みね子ちゃんは笑ってくれていただろうか。


その日の下校アナウンスではこう流れる。

「今日も一日お疲れさまでした。
今日はみなさんにとってどんな一日でしたか?
長縄に入れない子にプレッシャーを与えるのはやめましょう。
『今!今!』と縄に入るタイミングをみんなで言ったところで、余計に全身の筋肉が緊張してしまいます。
縄に入るどころか、みんなの声がプレッシャーとなり、どんどん身動きがとれなくなるのです。
泣きたくなってしまうのです。
一番大事なのはリラックスしてのぞむこと。
そういう雰囲気作りを心がけて下さい。
それでは明日も元気に登校しましょう。」


「そうか、そういうことだったのか!」
みね子ちゃんは放送委員の粗雑なアドバイスで、長縄に入ることができなかった原因を知る。


もし、長縄8の字跳びにタイミングよく入れなかった子がいたとしても、
99回目で縄に引っかかった子がいたとしても、みんなでこう歌って踊ってあげるといい。

『ズレた間のワルさも、それも君のタイミング♪
 
僕のココロ和ます なんてフシギなチカラ♪』

きっと、みね子ちゃんは笑って跳べるようになるだろう。


引用歌詞:ブラックビスケッツ「Timing~タイミング~」


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