見出し画像

ただの傍観者になった日

横断歩道を渡っている時、向こう側にある踏切が
「カンカンカンカン・・・」と鳴りはじめた。

数台の車が踏切を通り過ぎていく。

カンカンカンと鳴り、遮断バーが降りてきている
にも関わらず、踏切を横断しようとする車がいた。

案の定、踏切のど真ん中に車が来たところで
バーが降りてしまった。

『何なってんだよ』

と鼻で笑いそうになった。

前方も後方も遮断バーが降りており、
車は踏切のど真ん中で身動きがとれなくなって
しまった。

こんな状況を見たのは初めてだった。

車内には運転手と助手席に2人の男性がいる。

踏切の外には私とおばちゃんがいた。

『なんとかしてあげないと』

という優しさの気持ちよりも、

『何やってんだよ』

と呆れた気持ちで身動きがとれずにいる車内の
2人を見ていた。

『これからどうするんだろう』

と2人の動きを観察するだけで、

『私にできることはないだろうか』

という発想すら持てていなかった。

無能な傍観者だ。

ふと見ると、おばちゃんが遮断バーを上に
持ちあげようとしていた。

バーはびくともしない。

私は我に返り、おばちゃんと一緒にバーを
持ち上げようと試みたが、やはり動かなかった。

すると、自転車に乗った女性が踏切前にやってきた。

助手席に座っていた男が、その女性に何か
ジェスチャーで伝えているように見えた。

自転車に乗っていた女性は、
非常ボタンを押していた。

助手席の男はどうやら、『非常ボタンを押して』と
自転車の女性に伝えているようだった。

『いやいや、あんたが車から降りて、ボタン押せや』

と内心思った。

こういった状況になると、車内にいる人間も
頭が真っ白になり、動けなくなるものだろうか。

そして私こそが、ただ突っ立って見ているだけ、
何も行動に移さなかった人間。

非常ボタンの存在はいつも目にしていたはず。

こんな時に使えばいいのか、
なんて呑気に学んでいる場合ではなかった。

私はただの無能な傍観者であることを
突きつけられ、このままではいけないと思った。

何か自分にもできることはないか必死に探したが、
もうやるべきことはなかった。

誰かがいじめられているのを、面白がって
見ている側の人間なのだろうか、私は。

ゆっくりと電車がやってきた。

電車は停車し、車掌さんが電車から降りている。

車掌さんはこちらへやってきて、遮断バーを
開放するボタンを押した。

遮断バーは上に上がり、身動きがとれずにいた車は
踏切外に出ることができた。

心の中で、『何やってんだよ』と鼻で笑った自分を
思い返し、情けなく思った。

『何やってんだよ』

と思うのはいいかもしれないが、
ぼーっと突っ立って見ていないで、
今自分に何ができるかを考えるべきだった。

ただの無能な傍観者になった日だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?